JAXAの宇宙技術を民間へ、人類を救う宇宙ビジネスの未来

ESA / getty images


国見:どのような未来を描くのか-という大きな構想やアイデアが、イノベーションの起点になると思います。「宇宙」はそのきっかけとなりそうですが、未来をどう想い描いていますか。

高野:50年に世界の人口は90億人に増えます。エネルギー消費量は10年の約2倍、食料は約1.7倍、水は約2倍必要だと言われており、人類が危機的な状況に直面する可能性があります。日本について言うと、現在の生産人口は8,400万人ですが、これが50年には4,900万人に減り、政府債務がGDP対比で現在の200%から600%に増えるという予測があります。この深刻な事態を救うカギが、宇宙とテクノロジーにあると考えています。

たとえば太陽は非常に大きなエネルギーを放出していますが、地球上で活用できているのは1万分の1程度にすぎません。でも、宇宙に行ってエネルギーを集められるようになったら、エネルギー効率は桁違いに高くなるはず。ジェフ・ベゾスは50年には火星に移住したいと言っているそうです。

一方、テクノロジーの面で注目しているのは、大きな発展を遂げているAI(人工知能)やVR(バーチャルリアルティ)、ロボット技術です。先日、囲碁で人間に勝利したグーグルのAlphaGo(アルファ碁)に代表されるように、AIは劇的な進化を遂げています。またVR技術が進めば、遠く離れたものごとをまるでそこにあるように体験できる。それらを駆使して、宇宙ロボットに火星を開発させて農業をしてもらう-といったことも考えられます。まるでSFの世界ですが、現実味はあると思います。

国見:地上と宇宙がコラボレーションしていくわけですね。この視点は「宇宙探査イノベーションハブ」というJAXAのプロジェクトに関連すると思います。

奥村:現在、宇宙技術と言われるものも、もともとは地上の技術です。宇宙技術と地上技術をできるだけ有効に相互利用する場を提供しようというのが、宇宙探査イノベーションハブ構想の趣旨です。

1969年、「アポロ11号」が人類史上初めて月面着陸を達成しました。私が何より感銘を受けたのは、ケプラーの法則やアインシュタインの理論といった、地上で考案された基礎科学理論の正しさが、宇宙でも実証されたということです。つまり、人類の生み出した知的資産は、地上でも宇宙でも通用する普遍性がある。この資産を有効活用し、人類と地球のサステナビリティを確保する義務が我々にはあると考えています。

最近、中東地域を飛行機上から見る機会があり、改めて砂漠が多いことに気づかされました。同時に、JAXAが栗田工業と共同研究をしてきた宇宙ステーション用の水再生装置を中東の砂漠地帯に提供すれば、水問題の改善に役立つでしょう。

日本には、素晴らしい底力を持った企業や研究者が多くいます。それぞれのフィールドが抱える課題解決のために、JAXAの技術を活用していきたいと考えています。

未来共創会議
JAXAと電通が連 携し、宇宙技術を分かりやすく紐解く。それらをもとに民間企業とともにビジネスアイデアを考え、企業の課題を解決するための枠組み。単に技術だけでなく、 宇宙開発を通して培われたスタッフの視点や発想力、宇宙飛行士の訓練方法、衛星の打ち上げを必ず成功させるプロジェクトマネジメント手法などのノウハウも 含めて、多岐にわたるJAXAの技術的資産を生かした新たな事業の創出を目指す。

奥村直樹◎宇宙航空研究開発機構(JAXA)理事長。1973年東京大学大学院博士課程応用物理学専攻修了、新日本製鐵入社。99年取締役、2003年常務取締役を経て、05年代表取締役副社長(技術開発本部長)。07年内閣府総合科学技術会議議員に就任。13年から現職。

国見昭仁◎電通 ビジネスクリエーションセンター エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター。2004年電通入社。金融プロジェクトにおいて、100社を超える金融機関のマーケティング戦略を立案。10年、経営者と向き合いながら、企業のあらゆる事業活動を“アイデア”で活性化させる「未来創造グループ」を立ち上げる。14年から現職。

高野 真◎フォーブス ジャパン編集長。1987年早稲田大学大学院理工学研究科博士前期課程修了、大和証券入社。ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを経て、2001年ピムコジャパンリミテッド取締役社長。14年から現職。


文=Forbes JAPAN編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.23 2016年6月号(2016/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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