JAXAの宇宙技術を民間へ、人類を救う宇宙ビジネスの未来

ESA / getty images


国見:イノベーションを起こすには、アイデアや資金があるというだけでなく、その仕組みをつくることが大事なのですね。一方で宇宙産業の現状をどのように捉えられていますか。

高野:米国の状況には先ほど少し触れましたが、日本の宇宙産業においても志ある起業家たちが登場しています。13年にスペース・デブリ(宇宙ゴミ)問題に取り組むアストロスケールを立ち上げた岡田光信氏は「宇宙をきれいにする」という壮大な志を持っている。堀江貴文氏も宇宙事業への挑戦を諦めない一人です。

奥村:宇宙産業自体は、他と比べて決して大きなマーケットではありません。しかし宇宙は様々な“顔”を持っています。子供や人類の夢であると同時に、物理学者にとっては研究の対象です。また、安全保障や外交、防災や減災、インフラ管理など国家戦略や公共政策の対象であり、カーナビや衛星放送など日常の利便性を提供するための手段でもあります。

一つひとつの“顔”をうまく利用することで、私たちは違う何かをつくることができる。宇宙技術を従来と違う領域で活用していくことが、これからの時代の可能性を開くと思います。

国見:宇宙技術は、酸素や温度、重力をはじめ大きな制約がある中で、これまで不可能と思われてきたことを可能にしてきました。JAXAにはその高度な技術やノウハウが蓄積しています。ただ、普通の人には宇宙技術を活用するイメージが湧かないでしょう。そこで、宇宙技術と民間企業を橋渡しするべく、イノベーションを起こす仕組みづくりの場として未来共創会議を立ち上げたわけです。

奥村:たとえば、JAXAは自動車のシステム技術の開発をお手伝いしています。自動車は約3万点の部品で構成されていますが、ロケットは100万点とさらに膨大な部品が使われている。その膨大な部品を間違いなく、安全に操作するシステムを稼働させ続けるためには、非常に高度なソフトの信頼性技術とノウハウが必要なのです。

大きな構想に具体的な技術が伴って、これからの時代がつくられていくと私は考えています。JAXA自体が国民1人ひとりに製品やサービスを提供するわけではないですが、我々が持っている基礎的な技術をできるだけ企業や社会で活用してほしい。未来共創会議が、そのための場となることを願っています。
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文=Forbes JAPAN編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.23 2016年6月号(2016/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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