JAXAの宇宙技術を民間へ、人類を救う宇宙ビジネスの未来

ESA / getty images

宇宙開発に使われる超高度な技術を、民間で活用できないか––。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の奥村直樹理事長、電通の国見昭仁クリエイティブ・ディレクター、本誌・高野真編集長が、宇宙ビジネスと技術活用の未来を語る。

国見昭仁(以下、国見):JAXAは今、宇宙技術を民間企業や社会でのイノベーションに生かそうとしています。現在の宇宙産業や、民間におけるイノベーションには、どのような課題があるのでしょうか。

高野 真(以下、高野):日本の課題を探るために、シリコンバレーを中心に多くのイノベーションが起こっている米国の状況から考えてみましょう。たとえばシリコンバレーにあって、日本にないものは何か?

1つ目は、リスクマネーです。2014年のベンチャー投資額を日米で比較すると、米国の6兆円に対して日本は1,100億円。この数字が象徴するように、日本では宇宙産業に限らず、イノベーションを支えるリスクマネーが少ないことが課題でしょう。

さらに、シリコンバレーにあるスタンフォード大学の寄与についても触れたい。同大学教授の半数は、自らも起業した経験があるか、ベンチャーに投資していると聞きます。同大学の起業家支援に比べると、日本の大学の貢献は十分とは言えません。

2つ目は、米国にはシリアルアントレプレナーが多いということです。日本は失敗を許さない空気があり、起業家がリスクを取りづらい。我々は得てして成功しか見ませんが、成功の裏には何百という失敗があります。起業家は失敗を糧に成長し、また次の企業を立ち上げる。そうした起業家たちが、宇宙産業でも大きな存在感を示すようになってきています。

そして3つ目の違いが、高い起業家精神です。たとえば宇宙産業でいえば、テスラモーターズの創業者で02年に宇宙開発企業のスペースXを設立したイーロン・マスクや、アマゾンの創業者で、00年に航空宇宙企業のブルー・オリジンを設立したジェフ・ベゾスに代表されるように、宇宙ビジネスに対して高い志を持った起業家が台頭してきています。イーロン・マスクは持続可能な輸送手段やエネルギー供給によって世界を救うこと、ジェフ・ベゾスは世界最高の顧客体験を持続的に提供することを目指している。

高い起業家精神を持ち、失敗を成長の糧にするシリアルアントレプレナーが、米国でイノベーションを起こしているのです。

奥村直樹(以下、奥村):確かに米国に比べて日本では新しい分野での目に見えた投資額が少ないのは課題です。しかし、日本にはイノベーションの可能性を秘めた企業や個人の知恵があり、そのことが強みだと考えています。

たとえばコマツは、衛星情報を利用して世界中に配備した車両を遠隔管理するKOMTRAX(コムトラックス)という仕組みをつくり、建機事業のあり方を変えたと聞いています。これは知恵で勝負した日本発のイノベーションの好例です。資金は確かに大きな問題ではありますが、制約のある中でも視点を変え、知恵を絞ることで新しい世界が開けてくるはずです。

高野:日本にあるイノベーションの潜在能力を生かすうえで必要なのは、仕組みや環境づくりだと思います。そこで、そのカギとなるのが、人材・資金・アイデアが集中する日本の大企業です。たとえばトヨタ自動車には1兆円の開発費があるといいます。大企業に埋もれている人材・資金・アイデアをスピンオフし、リスクを取りやすくすれば、イノベーションを起こすためのエコシステムをつくることができるのではないでしょうか。

最近、私が注目しているのは、WiL(World Innovation Lab)というベンチャーキャピタルです。大企業のオープンイノベーションを事業の柱の一つとしており、その第1号の案件が、ソニーです。
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文=Forbes JAPAN編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.23 2016年6月号(2016/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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