一方、もう一つのシリコンバレーの企業、アップルもまた、自動車関連の研究開発(R&D)に数十億ドルを注ぎ込んでいるもようだ。そして、その金額はテスラをはるかに上回る。財務基盤からみて、アップルはイーロン・マスクCEO率いる進取の企業、テスラとは異なり、現在のペースで投資を継続するだけの十分な“射撃能力”がある。保有する現金は1,530億ドル(約16兆8,350億円)。世界の自動車大手14社の保有現金を合わせても、これには届かない。
アップルが自ら、自動車の開発事業に着手していると明言したことはない。ただし、同社がこのビジネスを大きなチャンスととらえていることを示す証拠はいくつも確認されている。
その最新の証拠となるのが、先ごろモルガン・スタンレーのアナリストが明らかにした調査結果だ。15年以上にわたってアップルのR&D投資のパターンを分析してきたケイティー・ヒューバーティは、同社が配車サービス事業への投資をさらに拡大しており、その金額は最大のヒット商品、iPhone発売前を上回ると指摘している。
ただし、その分析には誤りがある。ヒューバーティは、アップルは2030年までに配車サービス市場のシェア16%を獲得し、それによる売上高が4億ドル(推計されるiPhone売上高の約3倍)に達すると予想しているが、その計算と比較において、次の点を見逃しているのだ。
自動車メーカー各社はすでに何年も前から毎年、何十億ドルという金額をEV開発に費やしてきた。例えば2015年、ゼネラル・モーターズ(GM)は売上高の4.9%にあたる75億ドル、フォードは同4.5%に相当する67億ドルを充てている。だが、一方のアップルの中核事業はモバイル機器とソフトウェアの開発・販売だ。昨年は売上高の3.5%にあたる81億ドルを、これらの分野のR&Dに費やしており、投資額も前年の60億ドルから大幅に増えているのだ。
ここ数年、確かにアップルのR&D向けの支出は増加している(2014年の投資額は、前年比33%増)。しかし、モルガン・スタンレーにも他の誰にも、同社がこの3年間にR&Dに注ぎ込んだ資金が完全に、配車サービス市場への参入に向けたものであるのかどうかは分からない。