「嘘に騙されるロボット」とは!? 法務省の再犯防止プロジェクト

Olga Nikonova/shutter stock


「社会復帰するためには、他人とのコミュニケーション能力を身につける必要がある」と、片岡は言う。全国103カ所に更生保護施設があり、仮釈放や満期釈放、また、執行猶予を言い渡されて保護観察処分になった者などが、社会復帰まで収容される。寮生と呼ばれ、約1万4,000人がいる。

片岡がこんな話をする。「寮生は他人とのコミュニケーション能力が乏しいため、寮の中は会話がなく、刺々しい雰囲気になりがちです。中高年の女性が寮母になった施設がありました。仕事から帰ってくる中年男性に『お帰り』と声をかけたそうです。すると、何度も刑務所を入ったその男性が、『ただいま』と返すようになったのです。『ただいま』の一言を言うのがどれだけ社会復帰にとって重要なことか。これは驚くべき進化です。以来、寮の雰囲気は明るくなり、寮生たちの方から寮母に相談をするようになったそうです」

また、14年8月、首相夫人の安倍昭恵が、都内の女性保護施設を訪ねたときのことだ。寮生たちとの座談会がセットされると、寮生の過去を聞くことは避けようという暗黙のルールがあったのだが、ある寮生は訥々と、そして赤裸々に自分のことを語り出した。

それは「男に騙された」という薬物事犯の女性に多い話だった。親からの愛情を十分に受けずに育った者は、男性に依存し、そして男性に去られて孤独になることを極端に恐れる。そうして男の言いなりになり、薬物に染まっていく。

安倍は話を聞きながら、ぼろぼろと涙をこぼし、寮生も話を続けたという。職員たちが何よりも驚いたのは、寮生が「喋った」という事実だ。安倍の接し方で殻を破り、自分をさらけ出したのだ。

コミュニケーションを取れない人間が、なぜ自ら話そうとするのか。そこで着目されたのが、ソフトバンクのペッパーに対するときの人間の態度である。ロボットと相対したとき、人間は感情移入をしてしまう。ペッパーが高齢者施設で人気を集めているのも、誰もが話したがるからだ。

本当は本音を聞いてほしい人間と、感情移入されやすいロボットという組み合わせ。片岡はこう提案する。「嘘に騙されるロボットをつくれないか」と。
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文=藤吉雅春

この記事は 「Forbes JAPAN No.23 2016年6月号(2016/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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