「嘘に騙されるロボット」とは!? 法務省の再犯防止プロジェクト

Olga Nikonova/shutter stock

ロボットが、ダークサイドに堕ちた人間を更生させていく。SF映画のように犯罪者を管理下に置く話ではない。ロボットが犯罪者に寄り添い、再犯防止を目指す「更生ロボット」。法務省保護局の官僚が発案した意外なプロジェクトである。

ロボットが私たち人間の心理を変化させることなどありえるのか? そう思われるかもしれないが、驚く話ではない。例えば、世界的に注目されているロボット学者、大阪大学大学院の石黒浩教授は、すでにアンドロイドの存在が人間にもたらす行動を研究し続けている。

最高検察庁から2014年に法務省保護局長に就任した片岡弘は、「犯罪白書」の「入所受刑者の罪名別構成比 平成27年度版」という数字を見せてくれた(P38上の図を参照)。男女ともに「窃盗」と「覚醒剤」の合計が半数を超える。特に女性は80.3%と多い。

局長室で片岡が説明する。「窃盗と覚醒剤は、半数近くの者が再犯に及びます。こうした犯罪の背景に、昔は交友関係や貧困がありましたが、近年、上位になった原因は、社会的孤立と孤独です。薬物事犯でまたクスリをやりたいと思っている人はほとんどいません。刑務所から出てきて、見守る人や励ます人がいないため、一人では打ち勝てず、クスリに走ってしまうのです」

孤独は超高齢社会の断面なのか、昨年、犯罪白書に「社会的孤立型」という項目が登場した。孤立する高齢者以外にも、他人とのコミュニケーション能力が乏しかったり、社会に接する術をもたなかったりすることが、犯罪を犯す背景になっている。いま小売業を悩ませる高齢者の万引も同じだ。

「孤独になると先行きが不安になり、行動が守りに入るそうです。お金は持っていても、スーパーで一円も使いたくないといった思考に陥るのです」と、片岡は説明する。さらに深刻化すると精神を病み、盗んだものを持ち帰っても、食べたり使ったりせずに溜めて、家はゴミ屋敷になっていく。

2000年から受刑者の女性比率は上昇し続け、現在9%。特に覚醒剤は依存するため、年齢が高くなるほど再犯者が多くなる。65歳以上の女性受刑者のうち、約半数は刑務所に2回以上入っている。11回以上も受刑した65歳以上の女性は5.2%だ。
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文=藤吉雅春

この記事は 「Forbes JAPAN No.23 2016年6月号(2016/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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