「原子核時計」実現へ一歩前進か、研究が注目集める理由とは

「トリウム229」時計のイメージ (c)Christoph Düllmann


2. 測地学

原子時計と相対性理論に関する実験のうち、最も興味深いものの一つは、米国立標準技術研究所のデービッド・ワインランド率いる研究グループが数年前に行ったものだ。彼らは原子時計を置く高さを約30cmずつ変えて、重力の影響を測定した。

こうした研究とその結果に関する報告はまだ確認できていないが、東京大学の香取教授は先ごろ開催された原子分子光学物理分科(DAMOP)を前に公開した論文の概要の中で、約15mの高低差がある2つの研究所の間を光ファイバーでつなぎ、光格子時計の実験を行っていることを明らかにしている。

こうした“相対論的測地学”の研究の成果は、土地の密度の違いを計測することで地中に埋蔵されているものを発見する方法などに応用が可能かもしれない。このほかにも、衛星に搭載した時計の大規模なネットワークを構築する計画などが発表されており、注目に値する分野だといえる。

3. 基礎物理学

物理学ではよく、基本的な相互作用の相対的な強さ(電磁気力や核力、重力など)を測る「基礎定数」について語られる。これらの普遍とされるものが、はるか昔には現在とは異なるものであったのかどうかを確認しようと、さまざまな実験が行われてきた。古代にできた「天然原子炉」を用いる実験がその一つだ。

基礎定数が変われば、異なる原子を使った原子時計をつくる条件も変化する。異なる原子に基づく2つの時計を長期間にわたって比較すれば、基礎定数の変化についても一定の見解を得ることができるかもしれない。その時計が十分な精度のある時計(トリウム核時計に期待される水準)ならば、「オーストラリアのダイポール(双極子)」を確認できる可能性もありそうだ。

時計技術が向上し、それが腕時計や携帯電話に活かされるようになる可能性は、ゼロに近いほど低いかもしれない。だが、物理学的にはより精密な時計を目指し、研究を推進すべき多くの理由がある。

編集 = 木内涼子

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