「人工葉」発明のハーバード大教授が語る、イノベーションと商業化のジレンマ

ハーバード大学のダニエル・ノセラ教授 (Photo by Jemal Countess/Getty Images)


一方でエネルギー系スタートアップが失敗しても創業者は儲けていることが多い。

「学会から見ればシリーズCまで進んだら成功ですが、市場を本当に動かしている投資銀行家にとっては失敗でしかないのです。企業が破たんしているのですから」

エネルギー系スタートアップの前に立ちはだかるのは8兆ドル(約889兆円)もの投資が行われる既存のエネルギーインフラだと、ノセラ教授はシカゴ大学のエリザベス・モイヤー准教授の未発表の報告書を引用して主張する。

エネルギー業界におけるイノベーションには莫大な資本が必要であり、スタートアップにとっては必要な資金を素早く確保できる大企業との闘いが初期段階の障害になる。資本コストが低いITや、奇跡の治療薬というような希望に資金が集まる医薬品の分野ではスタートアップが成功しやすい。エネルギー系スタートアップは資本コストが高く、希望がないから難しいとノセラ教授は指摘する。

そのためフロー電池の改良に成功すると商業化の前に立ちはだかる“死の谷”を懸念し、フロー電池を市場に出せる企業を初期段階で探した。ロッキード・マーティンなら3年で実現できるとノセラ教授は言う。

現在は子会社化されロッキード・マーティン・アドバンスト・エナジー・ストレージ(Lockheed Martin Advanced Energy Storage)となっているが、同社がさらにフロー電池を改良した結果、キロワット当たり175ドル(約1万9,000円)を実現した。2015年にテスラが発表した蓄電池はキロワット当たり250ドルだとして衝撃を与えたが、それを大幅に下回る価格だ。

「早い段階でパートナーを探すことに私は希望を見出しています。教授たちの懐に金が入るやり方ではありませんが、それが正しいのです」とノセラ教授は言う。「技術を市場に出すのを発明家や学者が行うのは大きな問題です。大学は金になると思って後押ししますが、成功することはありません。儲けるべき人はリスクを取る人です。私のケースではロッキード・マーティンです」
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編集=上田裕資

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