相手のメッセージの8割は、聞き逃している[『仕事の技法』著者インタビュー 第1回]

田坂広志氏


Q2. 田坂先生は、そもそも、なぜ、この「深層対話」というものに注目されたのでしょうか? そのきっかけを教えてください。

田坂:そうですね。仕事において、この「深層対話力」が重要であることに気がつき、その力を意識的に身につけたのは、新入社員の頃ですね。

なぜなら、新入社員の頃は、社内の会議においては、上司や先輩が多くを発言し、会議をリードするからです。また、社外での商談においても、やはり顧客や上司が多くを発言し、商談をリードします。

こうした「自分で積極的に発言することもままならない状況」において、新入社員として力を発揮するためには、まず、顧客や上司の発言、すなわち「言葉のメッ セージ」の意味を、しっかりと受け止め、理解することが大切ですが、それに加えて、顧客や上司の表情や眼差し、仕草や身振り、態度や雰囲気などから伝わってくる「言葉以外のメッセージ」を敏感に感じ取ることが重要です。

例えば、社内会議においては、上司が会議のまとめをするとき、上司の無言のメッセージを感じ取り、言われなくとも、白板の前で上司のまとめを書き留めることや、社外での商談においては、顧客と上司のやりとりの中で、顧客が自社の情報の詳しい説明を求めていると感じたら、黙って、上司の横に自社のパンフレットや資料を差し出すことなどが大切です。

こうした能力を、一般には、「気配りができる」と評しますが、実は、この「気配り」の本質は、相手の「無言のメッセージ」や「言葉以外のメッセージ」を敏感に感じ取り、行動に移せる「深層対話力」なのですね。

このように、私が、「仕事の技法」の鍵となる「深層対話力」の重要性に気づき、その力を意識的に磨いたのは、新入社員の頃です。

ただ、新入社員や若手社員の頃からこの技法を身につけ、この「深層対話力」を磨いていくと、「気配りができる」という次元を超え、確実に、会議力や営業力、マネジメント力や交渉力など、マネジャーや経営者として求められる高度な能力が身についていきます。

例えば、ある程度、この「深層対話力」を磨いていくと、難しい営業や厳しい交渉の席でも、相手の心の動きが細やかに分かるようになります。また、部下や社員をマネジメントする立場に立ったとき、その部下や社員の気持ちが分かるようになります。

研究者をめざし大学院の博士課程まで行った私は、30歳で民間企業に就職することになり、それも、突然、法人営業という世界に投げ込まれました。いわば「7年遅れのランナー」として実社会に出たわけですが、それでも、短期間に遅れを取り戻し、後に、マネジメントの道や経営者の道を歩めたのは、この「深層対話力」を身につけ、磨いたからと思います。

インタビュー=フォーブス ジャパン編集部

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