——実は私は15年ほど前にブルームバーグで働いていたのですが、とても働きやすい会社でした。というのも、上司が全員女性で、女性が働きやすいシステムがきちんと整っていたからです。ブルームバーグでの経験は、私のその後のダイバーシティ・マネジメント観に大きな影響を与えました(インタビュアー:谷本有香ウェブ編集長)。
ピーター・T・グラウアー(以下P.G.):それはありがとう。以前の社員がそのように言ってくださることは、私たちの誇りです。
ダイバーシティ・マネジメントというのはさまざまな側面から捉えられる問題です。まず、女性というのは世界の人口の50%を占めておりますし、アメリカにおいては「大卒の53%が女性」という統計があります。つまり、才能のプールとして非常に潜在性がある。ブルームバーグのような大きな組織において、優れたプールにアクセスし、ベストな人材を雇用していくことは、ビジネスの世界で効率的に競争していく上で非常に重要です。
また個人的には、人口に対して女性が社会で活躍している比率は、まだまだ十分ではないと思っています。もちろんダイバーシティでは、人種や国籍、宗教、障害、性的指向などさまざまな異なるグループを取り入れていくことが重要ですが、女性というグループというのはそのなかでも影響力が非常に大きいと感じています。
——ブルームバーグでは、ダイバーシティの促進や均等雇用は、具体的にどのように構築されたのでしょうか?
P.G.:ダイバーシティに対しての思考や行動を変化していくためには、シニアリーダーたちがイニシアティブを取ることが重要です。2年ほど前、私はブルームバーグの創業者であるマイケル・R・ブルームバーグに「ダイバーシティは私が個人的に率いていきたい。シニアレベルで根づかせて、組織を変えたい」と直接伝えました。
最初に行ったのは、比較ができるようにベンチマークとなる数字をつくること。23ほどのビジネス部門とサポート部門があるのですが、それぞれ1年、3年、5年のタームでダイバーシティの目標を盛り込み、その後は年2回の会議で目標の達成度を確認し、さらなる目標値を決めることを繰り返しました。ダイバーシティ促進は、各部門長の責任の一部として組み込まれているのです。
現在の男女比は、約19,000人の従業員のうち、男性が6割以上。トップ1,000人に関しては、女性の割合が約18%で、これは2020年までに30%にまで比率を高めたいと考えています。統計によると30%というのがどうやら屈折点となるようで、そこを超えると組織にとって非常に良い決定をくだしやすいということがわかっています。
しかしながら、これらは一夜にして成し遂げられたわけではありません。「ダイバーシティを最適な形で効率的に運用できる会社を目指す」というゴールに向かって、3歩進んで2歩下がるというような動きを繰り返しながら、 少しずつ変化してきたのです。
——なるほど。日本でも先ごろ、安倍晋三総理が「女性の管理職の割合を2020年までに30%にする」と宣言しました。これを達成するためには、一体どのようなことが必要だと思われますか?
P.G.:安倍首相のように素晴らしいリーダーシップを持った方が、地面に楔を打ち込むように積極的な女性登用を推進するということは非常に有益だと思いますし、重要なことです。ただ、ひとつ言えるのは、「2020年までに30%にする」というのはターゲットの設定であって、そのゴールに向かってとにかくやり続けることが大切です。また、法律でどうこうできるようなものではなく、あくまでも人々の行動が変化していかなければならないものであって、そういった変化が起きやすい、受け入れられやすい環境を国がつくるということが肝心です。成功すれば、日本のみならず、他国にも良い先例をつくることになるでしょう。
ブルームバーグ東京の代表である石橋邦裕もダイバーシティを率先しておりますが、安倍首相が国を挙げて目標を掲げていくことで、企業のさまざまなリーダーにも大きな影響を及ぼし、目標を達成できる可能性も上がっていくのではないかと思います。その結果、2020年には無理かもしれませんが、22年あるいは24年には達成できるといった見通しが立つのではないでしょうか。