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2016.05.28 16:00

11歳で自殺未遂 トランスジェンダー女優、ラヴァーン・コックスの壮絶な半生

ラヴァーン・コックス(Slaven Vlasic / Getty Images)

ただでさえ競争の激しい芸能界において、黒人のトランスジェンダー女優が仕事を得ることは非常に困難だ。そんな中、ラヴァーン・コックスはドラマや映画に出演するだけでなく、トランスジェンダーの立場について積極的に発言することでキャリアを切り拓いてきた。

31歳のコックスは、女子刑務所を舞台にしたネットフリックスの人気ドラマ「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」のソフィア役で大ブレイク。様々な人種のLGBTキャラクターが登場する同作の中でも特に個性的なトランスジェンダーの美容師を演じ、エミー賞の演技部門にノミネートされた初のトランスジェンダーとなった。

「黒人のトランスジェンダーである私は、他の人の何倍も働いてきた。でもそのことに怒りを感じたことはない。自分は人よりも努力しなければいけないのだと受け止めている」とコックスは言う。彼女は先日、ニューヨークで開催されたフォーブスの第4回ウイメンズサミットに登壇し、大勢の女性起業家や社会リーダーを前にこれまでの試練や課題を振り返った。

トランスジェンダーの自殺未遂率は41%

コックスはアラバマ州モービルに男性として生まれ、仕事を掛け持ちするシングルマザーのもとでダンスや演劇に熱中する子ども時代を送った。いじめに遭い、11歳で自殺未遂した。
「私のジェンダーは監視の対象で、自分らしく振舞うことを止められていたの。成功を夢見ながらも、胸の内は恥でいっぱいだった」

やがてニューヨークに移ったコックスは、オフブロードウェイの舞台や学生映画にノーギャラで出演する日々を経て「オレンジ〜」のソフィア役を掴み、2013年5月にレストランのアルバイトを退職。その一年後、トランスジェンダーを特集した「タイム」誌の表紙を飾った。

今、アメリカではトランスジェンダーの人々が深刻な危機にさらされている。2011年、全米LGBTQタスク・フォースと全米トランスジェンダー平等センターがトランスジェンダー6,450人を対象に行った調査によると、アメリカ人全体の自殺未遂率が1.6%であるのに対し、トランスジェンダーの自殺未遂率は41%に上る。半数以上が偏見によって失業したり、学校でいじめを受けたりしたことがあり、61%が暴力をふるわれた経験を持つ。そして3分の2以上が性的暴行の被害に遭っている。

2015年には、少なくとも21人のトランスジェンダー男女が殺された。被害者のジェンダーが非公開、あるいは正しく認知されていないケースも含めると、実際の被害者数はそれよりも多いと考えられる。またターゲットには人種やジェンダーの偏りがあり、前述の21人のうち19人が有色人種である。全米反暴力プログラム連合が2013年に発表したデータでは、LGBTQの殺人被害者のうち90%が有色人種で、72%がトランスジェンダー女性、67%が有色人種のトランスジェンダー女性だった。

「『タイム』の表紙に載ったのは、私個人の顔じゃない。長い間、存在を抹殺されてきたトランスジェンダーのコミュニティなの」とコックスは言う。トランスジェンダーは昔も今も変わらず存在しており、コックスはその証なのだと。

ハリウッドでは、「オレンジ〜」や米アマゾンが製作・配信するドラマ「トランスペアレント」、インディペンデント映画「タンジェリン」などにより、少しずつトランスジェンダーの存在が可視化され始めている。それでもまだ映画やドラマが現実を反映しているとは言い難い。GLAAD(元・中傷と闘うゲイ&レズビアン同盟)が2015年公開の大手スタジオ映画におけるLGBTの露出度を調べたところ、トランスジェンダーが登場する作品は「キューティ・コップ」のみだった。そのキャラクターも、ギャグのネタとして登場する端役に過ぎない。

コックスは女優として活躍する一方で、他のトランスジェンダーの声を世間に届ける活動にも力を注いでいる。製作総指揮を務めた映画「FreeCeCe」は、ヘイトクライムに抵抗した結果、過失致死罪で男子刑務所に入れられた黒人のトランスジェンダー女性を描いたドキュメンタリーだ。また、トランスジェンダーの若者7人を追ったTVドキュメンタリー「Laverne Cox Presents: The T World」では、プロデューサーとしてエミー賞を受賞している。

「男性であれ、女性であれ、ノンバイナリー(自分は男女どちらでもないと考える人)であれ、人は皆、旧来の家父長制や人種差別や階級差別によって傷ついている。私たちはその傷を癒さなければいけない」とコックスは主張する。
「過去を嘆いていても仕方ない。すべての失敗や苦労の上に今がある。試練なくして、何かを証明することはできないのです」

編集=海田恭子

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