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2016.05.27

「デジタル化」掲げるVWの中期戦略、目指すは打倒アップル? 社内に疑問の声

Sean Gallup / Getty Images

フォルクスワーゲン(VW)は新CEOが就任するたびに、新たな事業戦略を発表する。同社のCEOに就任したマティアス・ミュラーは先週、各地から独北部ウォルフスブルクにある本社に集まった同社の管理職を前に、近く公表する予定の2025年までの中期経営戦略について説明した。

同国紙ビルトはこの大規模な会議の目的について、新戦略の正式発表を前に「“各部隊”の団結の呼びかけ」と、新たな方針に従うと「誓わせる」ことだったと報じている。

しかし、出席した管理職の全員にそう誓ってもらうためには、もう少し戦略を練り直す必要がありそうだ。管理職の意見は、大きく分かれているもようだ。

新戦略に掲げる「デジタル化」の推進チームの中には、この新たな戦略によってVWは、アップルをしのぐことも可能だと夢みている人たちがいるという。一方で、長年にわたって同社に勤め、苦労を経験してきた人たちは、この新戦略の内容は大半がつまらないものだと考えている。興味を引いたいくつかの内容といえば、会議に出席したかなりの人たちが、“完全にどうかしている”と感じた事柄だ。

VWが前回、新たに中期戦略を発表したのは2007年。マーティン・ヴィンターコルンがCEOに就任したときだ。この戦略では、同社は“世界制覇”を宣言した。2018年までに、販売台数だけでなく収益性、革新性、顧客満足度などすべてにおいて、トヨタを制するとの目標を掲げた。

大胆な計画だったが、VWはその達成に近づいていた──トヨタはVWが必要とする半分ほどの人員で1,000万台を生産することができ、これを考慮すれば、VWは収益性の面でトヨタの足元にも及ばない。さらにVWは現在、顧客満足度の点で大きな問題を抱えている。これらに目をつぶれば、という条件付きならば、だが。

また、VWが革新的ではないともいえない。何といってもその創造的なアイデアで、排出量を調節するという難しい手法を極めたのだ。その点で、指導的な立場を主張することができる。

自動車業界では、成功の基準とされているのは結局のところ、販売台数だ。そして奇妙なことにVWは今年、その台数でトヨタを負かすことができるかもしれない。ただ、仮にそうなったとしても、新戦略を打ち出そうとする今、古い目標を祝うことはないだろう。

新戦略の目玉は「デジタル化」

ミュラー新CEOはこの会議で、新戦略のひとつとして「デジタル化」を挙げた。出席した管理職の一人によると、これを打ち出した背景にあるのは、同社の次のような現状だ。

VWの開発者たちが生きている世界では、以下のことが信じられている。

1. VWのエコシステムは、他に類をみないものだ
2. VWはこのエコシステムを適切に守り、管理している
3. VWは世界中に数百万の顧客を持ち、これらの顧客は我が社のエコシステムに加わろうと列をつくるはずだ
4. エコシステムは自己学習する
5. VWはハードウェアとデータのいずれも自ら管理する。アップルを追い込み、最終的には我々が優位に立つ

ほかにも前回の中期計画と同様の野心的な計画が掲げられた。打倒トヨタは忘れ、最終的にはアップルを下すことを目指そうというのだ。どのようにそれを実現するのかと尋ねた記者に対し、会議に出席した管理職の一人は、次のように答えた。

VWの若き優秀な開発者たちは、こう考えている──「VWの自動運転車を持つ男性が、自分の車に乗り込む。搭載されているスクリーンは、その日が結婚記念日であることを知らせてくれる。妻の大好きな花の名を言うと、通り道にある花屋を教えてくれる。オンラインで花を注文し、帰り道に受け取って帰ることができる。支払いはアップルペイではなく、ペイパルで済ませる」

自動運転車だという点を除けば、iPhoneでできることばかりだ。記者がそう感想を述べると、その人はこう言った。

「その通りだ。それが、我が社の問題なのだ」

編集 = 木内涼子

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