米陸軍のセドリック・キング曹長は12年、アフガニスタンでの戦闘中に即製爆弾(IED)を踏んで両足を失くした。その19カ月後、彼はシュルツとウォルター・リード軍医療センターで出会う。再び歩けるようになりたいキングは、義肢の使い方にもがきながら、車椅子で立ち往生していた。一方、シュルツはアメリカの退役軍人についての本のために、勇気と葛藤の話を集めて回っていた。二人は、病院の食堂で一時間ほど話をした。「楽しいひとときだったけれど、シュルツと会うことはもうないと思っていた」と、キングは語る。
だが、二人は再会する。15年の夏にシュルツ・ファミリー財団が、就職フェアで講演をしてほしい、とキングに依頼したのだ。
当日、額から汗を流しつつ、キングは6,000人の出席者に向けて「何事も自分の気持ち次第」と訴え続けた。聴衆には、シュルツの姿もあった。「僕は両足を失いました。だから、この新しい足で生きていくしかありません」
キングはピンストライプのズボンの裾の折り返しを上げ、チタン製の義足を見せた。人々が息を呑むと、彼は締めの一文を届けた。「今を受け入れ、進まなくてはいけないのです」
ステージの下では、自分よりも若い人々に囲まれて、“コーヒー国家の大統領“が顔を輝かせている。その顔は、キングの話を初めて聞いたかのようだった。会場を、希望という名の風が吹き抜ける。
シュルツは、その香りを胸いっぱいに吸い込もうとしていた。
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