これは、米国で最も著名な遺伝子専門家の一人であり、初めてヒトゲノムの解読を行ったクレイグ・ヴェンダーの見解だ。彼は長年、科学者兼起業家として功績をあげてきた。2000年には、彼が創立したセレラ・ジェノミクスが、公共プロジェクトのヒトゲノム計画に協力。初のヒトゲノム配列のドラフを作成した。
“生命の本”とも言われるヒトゲノムは当時、医学研究者たちを何世紀にもわたって混乱させてきた“あらゆる謎”を解くカギとされていた。ドラフトの完成で、将来の見通しはかなり明るくなったと思われた。
しかし、結局ゲノムの解読だけでは不十分であることが判明。患者がおそろしい病気になることを暗示する遺伝子を特定しても、危険な突然変異を回避することはできないからだ。
ヴェンダーは、考え得る全ての組み合わせと配列を組織的に処理する方法を確立することが必要であると気づき、新たにバイオベンチャーのヒューマン・ロンジェビティを創設。機械学習や超高性能の演算処理機能を活用して、患者のDNAを解析し、複雑なパターンや相互作用を探すビッグデータ分析の取り組みを始めた。
遺伝子分野の多くの研究者は、がんや心疾患に焦点を当てていたが、ベンターのデータ分析によれば、これらの疾患をゲノムから予想することは不可能だった。がんの場合、遺伝性のマーカー(特定の病気を引き起こしやすい特有のDNA配列)が原因となる例は全体の10%に満たない。また心疾患は、食生活や運動などライフスタイルにおける選択の方がずっと病気の予想に役立つことが判明したからだ。
だがほとんどのがんや心疾患と老化の間には、直接的な相関関係がある。これを踏まえて、ヒューマン・ロンジェビティでは老化を遅らせる戦略に重点を置いた。
がんの遺伝子があるというのは、あまりに単純化した考え方だとベンターは考えている。遺伝子には多くの機能があり、その中の1つを取り去れば、患者やその子孫に予期せぬ影響をもたらす可能性がある。