しかしそれは、ショッピングモールを基盤とする店舗に注目しすぎているからだ。ホームセンター大手のホーム・デポやネット通販大手のアマゾンに目を向ければ、状況はそれほど悪くない。
百貨店メイシーズ、ノードストロームとコールズの収益は、対前年比で6億4,000万ドル(約705億円)の減少を記録した。しかし、その一方で、アマゾンが64億ドル(約7,051億円)の売上増を発表したことを考えれば、消費者の財布の紐はそれほど固くないように見えてくる。投資銀行大手モルガン・スタンレーの証券ストラテジスト、アダム・パーカーは、投資家とマスコミは細部にこだわって大局を見失っていると主張する。
「3社の業績が悪化しても1社の業績が改善していれば、事態はそれほど悪くない」とパーカーは顧客向けの報告書に記している。「飛行機事故で死ぬ人よりも心臓発作で死ぬ人の方が多いのに、飛行機事故の方ばかりが新聞の一面で取り上げられるのと同じだ」
金融データ&ソフトウェア会社ファクトセットは、小売部門のサブインダストリー(百貨店、家電量販店、アパレル)の業績不振を、ホームセンターやネット通販の際立った好業績が相殺していると分析する。ネット通販部門の利益は2016年の1月~3月期、前年同期比で2倍以上を記録した。その主なけん引役がアマゾンだ。
ホーム・デポは5月17日に四半期決算を発表。1株当たり利益は19%増、売上高は前年比9%増の228億ドル(約2.5兆円)を達成。通期の業績見通しも上方修正した。
ほかにもホームグッズなどの小売店を展開するディスカウント大手のTJXが、通期見通しを上方修正。同社は利益率、既存店売上高と営業利益がともに増加し、同セクターで最も良い四半期業績を記録した。
17日の各社の決算内容に加え、13日に発表された4月の小売売上高も、個人消費に関する悲観的な見方を打ち消す内容だ。百貨店や衣料品小売店の売上が前年同期よりも減少したにもかかわらず、季節調整済みの小売売上高は前月比で1.3%増、前年同期比で3%増だった。最大の伸び率を記録したのは建築資材とヘルス&介護、それに無店舗小売業者(10.2%増)だった。
業績が好調な小売業者は、消費者が購入にあたって手助けを必要とするか差し迫って必要としている、あるいは格安の商品やサービスを提供している分野だ。そのほかのあらゆる商品やサービスについては、アマゾンなどのネット通販が席巻している。その他の小売業者が売上や収益減少の脅威にさらされているからといって、米国の消費者が経済的苦境にある訳ではない。
モルガン・スタンレーのパーカーも、顧客向けの報告にこう記している。「消費は縮小ではなく拡大している。だが各企業が好業績を達成することよりも、業績悪化を記録することの方が多いために、一部で誤解を招くような報道がなされることになる」