テスラのアジア太平洋部門トップ、レン・ユーシャン(任宇翔)は4月、北京で開かれたカンファレンスで、世界第2の自動車マーケットである中国でのモデル3の予約状況について、具体的な数字は明らかにしなかったものの、「かなりいい数字だ」と語った。既存モデルのS(7万1,500ドル)やX(8万3,000ドル)に比べ、モデル3は3万5,000ドル(約380万円)と手頃な価格で、世界での予約数は、3月31日時点で40万台近くに達している。
テスラのこの2年間の中国市場での歩みは、順調とは程遠かった。モデルSは輸送費や関税を上乗せした結果、中国での販売価格が10万6,000ドル(約1,200万円)となり、高すぎる価格と充電施設の不足で消費者に敬遠された。CEOのイーロン・マスクは2014年に1万台としていた販売目標を今年は5,000台に引き下げ、中国部門の人員の削減を余儀なくされた。
購入者は「都会のエリート」
2015年第1-3四半期、テスラの中国本土での販売台数は3,025台だった。購入者の多くは都会に住むエリートだ。自身の3台目の車として昨年6月に12万2,658ドル(約1,300万円)でモデルS を買った上海のエリートビジネスマンは、購入動機を「見栄」と語った。
上海のコンサルティング会社LMC Automotiveのゼネラルマネジャー、ジョン・ゾンは「テスラのターゲットは、企業が発するスーパースターのオーラを身にまといたい金持ちで、彼らにとってそれは、車ではなくおもちゃだ」と説明した。
モデル3の予約が好調に推移していることは、より多くの消費者がEVにシフトしていることを示しているが、それでもテスラにはまだ乗り越えないといけない現実がある。
テスラはこれまで、予定通りの納車ができていない。複雑なサプライチェーンの中で、大量の注文に生産が追いつけるのか不安がある。テスラは、モデルSの販売時に実施した保有車の買い取り制度を今回は行っていない。そして充電施設の整備も不安材料だ。
LMCのゾンは、「予約数は実際の納車数と同じとは見なせない。中国の消費者は、テスラの車が数年後も快適に乗り続けられるのか心配している。これは最大の不確定要素だ」と述べた。
中国の売れ筋EVは160万円以下
価格もネックだ。モデル3は従来モデルより安価とはいえ、中国人の大部分にとってはなお高すぎる。中国の昨年のEV販売台数は33万台だったが、購入した個人のほとんどは、1万5,000ドル(約160万円)以下の商品を選択した。上海の自動車業界調査会社AutoForesightのマネージングディレクター、エール・ジャンは、「彼らは、ナンバープレートを取得する手段としてEVを購入する」と説明した。中国政府は交通渋滞や大気汚染を緩和するために、自動車購入制限を行っているが、モデルSを含む多くのEVは環境対応車とみなされ、規制の対象外となっている。
ジャンは、「テスラの中国での未来は、現地生産できるかどうかにかかっている」と分析する。マスクも関税や輸送費のかからない現地生産によって価格を3分の2ほどに圧縮できると発言し、その実現に向けて米政権にも働きかけている。
テスラはこのほかに、資金力のある中国のカーメーカーとも競争しなければならない。中国のIT大手テンセント(騰訊)が出資するNextEVは年内にもスポーツタイプのEVを発表すると見込まれている。米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が投資するBYD(比亜迪)は今年のEVの売り上げを15万台と予測。ドイツのダイムラーAGはBYDと組んで、中国市場向けEVの開発に力を入れている。
ジャンは言う。「今後中国にはさらに多くのEVが登場するだろう。その中でモデル3がポジションを確立できるかどうかは未知数だ」