デュポンのケースから見るべきことは3つある。
(1)「拠って立つものの存在」
前向きにセパレーションし、事業のみならず、企業の姿そのものを変えるようなイノベーションを起こしていくために「価値観」といったぶれない軸を持つ。
(2)「強みと弱みの客観的認識」
どのような技術やケーパビリティを持ち、何が不足しているのか。(1)に照らして保持すべきか、セパレーション対象になるか。また、不足を補うのは自前か、外部獲得か、アライアンスかを“思い入れ”抜きに判断する。
(3)「決断するリーダー」
断続的なイノベーションを紡ぎ、収益力を高位安定させるため、リーダーが強い意図を持ってリソースを配分する。
これら3つの観点から、企業の魅力度を高め、新しいことに挑戦する環境を作り、グローバルで優秀なタレントをひきつけ、そして勝つ。これこそがイノベーションに欠かせないことだろう。
現在の日本にも同じことが言える。イノベーションや新しい産業創造への“リソースシフト”が必要だ。新しい領域を生み出すには、そこに傾けるリソースを解放しなければならない。これまでも鉄鋼業界などでは構造転換はあり、現在電機業界などで進んではいるが、まだまだ同じような事業を営む企業は多い。どのように「集中と解放」を促していくかが焦点である。
それはすなわち、“新”を生み出すイノベーション、“旧”を整理するセパレーションを両輪で回し続けることである。新しい芽は自然に出る。あとは、伸びやかながらも強く育つ土壌を耕すしかない。しかし、古いものは意図をもって崩す必要がある。真の「生産性革命」の実現のためには、資本、事業、人材の固定化を解消する-それが、縮小均衡の弱小・日の丸ではない未来を創ることにつながる。
日置圭介◎デロイト トーマツ コンサルティング グローバル マネジメント インスティテュート 執行役員 パートナー。早稲田大学大学院会計研究科非常勤講師。