米企業に学ぶ、イノベーションを生む「セパレーション」

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「コアバリュー」と「技術的な強み」を考慮

各報道にも見られるように、物言う株主(アクティビスト)など資本市場からのプレッシャーも少なからず受けており、これらすべてがハッピーセパレーションかどうかは評価が難しい。しかし、デュポンは、どのような企業として存在していくのかをビジョンとして定め、社会のメガトレンドを読み、「普遍的な価値観=コアバリュー」と「技術的な強み」を考慮して事業領域を選定しており、その方向性に沿わない事業は、たとえ収益性が良くてもセパレーションの対象としているように見える。

また、ビジネスをグロース(成長)とメインテイン(維持)に区分し、投資を傾斜配分している。メインテインとされた事業が必ずしも収益性が低いとは限らない。社内では投資が回ってこないだけで、セパレーションにより事業として輝く可能性がある。実際、対象事業の中には、収益性やマーケットポジションが高いものも多く、他社に売却されたり、別会社として上場したり、事業を推進するために必要な経営リソースを得て活躍を続けている。

一方、デュポンは、セパレーションで得た資金でバイオサイエンス企業への変身を進めてきた。99年には種子大手の米パイオニアを、11年にはデンマーク食品素材大手のダニスコを買収。さらに、大型買収を梃子にし、自らが持つ技術と小さなM&A(合併・買収)も紡ぎながらリソースをフォーカスし、イノベーションを起こしてきた。「大型買収に依存し過ぎると失敗に終わりがち」という企業の歴史を学んでいるようである。今般の米ダウ・ケミカルや独BASFとの大再編の動向がどのように影響するのか、いまは知る由もないが、今後も注目したい企業である。

このようなドラスチックな動きは、日本企業の経営者にとっては、米流「株主至上主義」とあいまって、違和感があるかもしれない。例えば、足の長いR&D、特に基礎研究ができないから自前の技術を磨けない、また企業としての収益性が低い中、利益ある事業を売却することは考えられないなど、様々な見解があるだろう。気持ちはわからなくないが、変化の速い経営環境下において、どのようにグローバルの競合と対峙していくのか。セパレーションという選択肢を持たない現在の延長線上でイノベーションを起こしてゆけるのか。

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日置圭介 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.22 2016年5月号(2016/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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