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田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

ArtmannWitte/shutterstock

かつて、人間の「不動心」について、興味深い心理学実験が行われた。

一人は、最近、座禅の修行を始めたばかりの若者。もう一人は、永年、禅寺での修行を積んだ禅師。その二人に、座禅中の脳波の測定実験を行ったのである。

最初、二人同時に、座禅による瞑想状態に入ってもらい、その脳波をそれぞれ測定したところ、二人の脳波は、いずれも整然とした波形を示し始めた。

そこで、実験者は、二人を驚かせるために、突如、大きな音を立てたのである。すると、二人の脳波は、いずれも、大きく乱れた波形を示した。

すなわち、永年の厳しい修行を積んだ禅師も、修行の入り口の若者と同様、その音によって心が乱れ、決して「不動心」ではなかったのである。

しかし、実は、この実験、その後の二人の脳波が、大きく違った。若者の脳波は、音が静まった後も、いつまでも乱れ続けたが、禅師の脳波は、すみやかに、もとの整然とした状態に戻ったのである。

この興味深い実験結果は、「不動心」の真の意味を、教えてくれる。

「不動心」とは、「決して乱れぬ心」のことではない。「不動心」とは、「乱れ続けぬ心」のこと。

すなわち、我々経営者やリーダーに求められる「不動心」とは、どのような危機が起こり、いかなる問題が生じても、「心が微動だにせぬ」という意味での「不動心」ではない。

生身の人間であるかぎり、一瞬、心が大きく揺らぐことがあってもよい。しばし、心が穏やかならぬ状況に陥ってもよい。その直後、心が戻っていくべき場所を知っていること。それが、経営者やリーダーには、問われる。

文=田坂広志

 

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