2008年のリーマン・ショック以降、資本主義のあり方を問う、書籍や記事を目にすることが多くなりました。
中でも本書は、小渕恵三内閣の経済戦略会議メンバーで、グローバル資本主義の旗ふり役だった中谷巌氏が、「懺悔の書」だとしたことで賛否両論を巻き込み、論争を引き起こした一冊です。
グローバル資本主義を日本に持ち込んだ張本人である中谷氏は、なぜ考えを転向したのでしょうか。
理由は、グローバル資本主義は「世界経済活性化の切り札であるのと同時に、世界経済の不安定化、所得や富の格差拡大、地球環境の破壊など、人間社会にさまざまな『負の効果』をもたらす主犯人」だったことです。
本書では、なぜグローバル資本主義が自壊に至ったのか、なぜ格差が生まれたのかなどの疑問一つひとつを、歴史的な観点から丁寧に分析し、グローバル資本主義の問題点を明確にしています。
経済の歴史は振り子のようなものです。たとえば米国経済の歴史をとっても、アダム・スミスの自由放任主義、大恐慌後のケインズ経済、1970年代不況後のレーガノミクス、そして米国有史以来、最大の政府介入とされるオバマケアという具合に、自由主義市場経済と、政府介入を良しとするケインズ経済の間を、行ったり来たりしました。
「歴史は繰り返す」。それは、ビジネスの世界でも同じです。わが社が手掛ける人材サービスも、そういう流れをたどって、今に至っています。
「終身雇用」が当たり前だった高度経済成長期、求職活動は不幸にして失業者になった人々がやむなく行うものでした。しかし、80年代後半のバブル経済によって、求職活動はより良い条件の仕事にありつくためのものへと変わっていきました。それにともない、人材ビジネスは、失業者を職に就かせるためのセーフティネットから、人材サービス業へと変貌を遂げていったのです。
そして現在、日本は成熟経済に入り、人口減少によって就業者数が減少傾向にあります。そのなかで、「雇用の多様性」や「定年延長」が大きなテーマとして注目されるようになり、人材ビジネスは再び、日本経済の活力を労働力の面から支えるセーフティネット的な役割が求められるようになりました。形は変わったものの、歴史は繰り返しているのです。
経営者は、時代の潮目を冷静に判断し、社会の期待とユーザーの心をつかんで離さないサービスを提供し続けなければなりません。歴史観をもって未来を考えることは、経営者に不可欠な要素です。
日本企業は、良質な商品を作ることで成長してきました。本書は、日本企業の実績から強みや弱みも分析しています。日本人らしい価値観を再確認させてくれるでしょう。ぜひ、ご自身の立場に置き換えながらお読みください。
title:資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言
author:中谷 巌
data:集英社 1,700円+税/376ページ
あめみや・れおな◎1975年、神奈川県生まれ。法政大学経済学部卒業後、光通信、リクルートエイブリック(現リクルートキャリア)、リクルートホールディングスなどを経て、2014年1月、インターワークス副社長、4月から代表取締役社長に就任し、現在に至る。