改革の秘訣は“本気”にあり 上杉鷹山が示すリーダーシップの本質 [CEO’s BOOKSHELF]





Title 漆の実のみのる国(上)(下)
文春文庫 (上)514円+税/286ページ (下)560円+税/315ページ
Author 藤沢周平
小説家。1927年、山形県鶴岡市生まれ。山形師範学校卒業後、結核を発病。上京して5年間の闘病生活を送る。73年「暗殺の年輪」で第69回直木賞を受賞。主要な作品として「蝉しぐれ」「三屋清左衛門残日録」「一茶」「白き瓶 小説 長塚節」(吉川英治文学賞)など多数。89年、第37回菊池寛賞受賞。94年には朝日賞、東京都文化賞、95年紫綬褒章受賞。97年1月、逝去。


CEO’s BOOKSHELF 中野晴啓 セゾン投信株式会社代表取締役社長
1963年、テキサス州ダラスで凶弾に斃れたJ・F・ケネディが尊敬する政治家は、江戸時代の日本人でした。

 上杉鷹山がその人。

 日本でも、90年代のバブル経済崩壊前後から、「鷹山ブーム」が沸き起こりました。この本も、そうした流れのなかで出版された一冊で、著者である藤沢周平氏の絶筆となった小説です。
初出は97年。思い起こせば当時の日本では、金融不動産バブルが崩壊、銀行は多額の不良債権処理に苦しみ、日本型経営に対する疑問が高まるのと同時に、IT化とグローバル化が急速に進み始め、多くの日本企業はリストラクチャリングへの取り組みを余儀なくされていました。

 そんな時代背景のなかで出版されたのが本書です。
上杉鷹山は、米沢藩の第9代藩主です。米沢藩は代々、上杉家が藩主を務め、戦国時代には120万石もの石高を持つ大名でした。しかし、関ヶ原の合戦で石田三成が率いる東軍に加勢し、敗北した結果、30万石への減封を命ぜられました。

 減封は藩の台所事情を直撃します。藩の収入が激減しているのに、家臣の数を減らそうとしなかったため、米沢藩の財政事情は急速に悪化しました。鷹山が家督を継いだとき、すでに米沢藩の財政事情は、“破綻寸前”でした。

 鷹山は藩主に就くや、さまざまな改革を断行していきます。ただ、その改革は決してスムーズには進みませんでした。いまの日本も同様ですが、改革が必要な状況に直面しても、それを喜ばない人たちが常に一定数います。守旧派、あるいは抵抗勢力と呼ばれる、旧体制の下で利権を貪っていた人たちです。鷹山の藩政改革は、まさに抵抗勢力との闘いでした。

 どうすれば守旧派を自分の政策に取り込めるか―。頭ごなしに命じても、反発を受けるだけです。鷹山は部下に命じるのではなく、率先垂範(自分がすすんで手本を示す)を心がけました。自宅に漆の実を植え、それが実ったら売ってお金に替えられることを、自らの行動を通じて家臣に教え、実践させたのです。(中略)

 人を動かすためには、自分でやってみせるのと同時に、自身も“本気”で取り組まなければなりません。本書は、改革時代におけるリーダーシップ論という観点から読むこともできます。

 そして35歳で隠居するという鮮やかな引き際。成果は自分が享受するのではなく、後進に渡す。そのカッコイイ生き様にしびれます。

中野晴啓 セゾン投信株式会社代表取締役社長

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