新国立競技場が「税金の無駄遣いだ!」と批判の集中砲火を浴びる直前まで、「国立競技場」が大人気になっていた話をご存知だろうか? 米村修治はチケット販売会社「ぴあ」に勤務しているため、競技場とは深い縁があった。
「1,500万人のチケットぴあ会員は、国立競技場に思い出がある人が多いはず。解体されるなら、さよならイベントをやろう」と、廃材になるはずの備品をアイデア商品にすることを思いついたのだ。
例えば、大量にあるブルーの自由席。一流のデザイナーたちが次々と洒落たスツール、チェア、ベンチに加工した。右の写真のベンチは一台54,000円。座れば、懐かしいワンシーンが目に浮かびそうだ。人気ナンバー1は、世界のスターたちが駆けたピッチの芝生。5センチ四方に裁断されて卓上ミニプランター(1,800円)になった。競技中、みんなが固唾を呑んで記録や得点に一喜一憂した、あの電光掲示板も正方形に切りとられた。改造されて39,800円のデジタル時計に変身したのだ。電光掲示板時計は大人気で、202個限定で製作し、即日完売だったという。
表彰台(35万円)も、選手更衣室のベンチ(98,000円)も、処分場行きだったところを、ファンたちが思い出と一緒に購入し、シェアする。この「メモリアルプロジェクト」は次に、昨年8月に閉鎖されたホテルオークラに向かった。
米村に声をかけられた元・中小企業基盤整備機構のビジネスプロデューサー、内田研一は、「平安の間に向かう廊下の壁紙が豪華だったので、みんなで『せーの』で剥がして、クッションのカバーにしました」と笑う。米村や内田のイベントがヒットした要因は、町工場の技術者たちが仲間だったからだ。中小企業の力で、オークラのシャンデリアがペンダントになり、手すりが一輪挿しに変わったのである。
「次は改修される横浜アリーナを考えていますが、加工の技術者はオール横浜で、収益はスポーツや音楽支援など社会貢献に使ってもらおうと思っています」(内田)
内田らの廃材アイデアは、本誌特集「おもしろアイデア」30選のどのモデルにも当てはまる。産廃という課題先有り型で、資源活用型。思い出を共有するシェアエコノミー型、オールドエコノミー改良型、付加価値型。さらに世界の潮流である、みんなでつくる「ファブラボ」でもある。そう、もう誰もが新商品に熱狂する時代ではない。みんなで楽しくて面白いことがしたいだけだ。地方でビジネスを見てきた前出の内田はこう言う。
「アイデアは二の次。一見、バカバカしいことを一生懸命にやれることが、本人にとって最も幸せなことだし、周囲の人も幸せにできるんです」
自由席と指定席の一部は、隅田川をクルージングする遊覧船の船上に。また、1964年の東京五輪の灯火台は巨大なので、3Dプリンターで小型の蝋燭台に。