このFATCAをはじめとする税制を市民権放棄の理由に挙げる人はいるが、国籍を離脱する理由は一つだけではない。IRSによる税金滞納者へのパスポート発行の拒否、または保持者からのはく奪が可能になったことも影響している。二重国籍の保持が認められないことが理由で、米国以外の国を選ぶ場合もある。
外国への移住には多額の出費が伴う。手続きに料金がかからない国もあるが、米国ではパスポート返納の際に、2,350ドル(約25万3,000円)を支払わなくてはならない。この金額は、その他の高所得国の平均の20倍以上だ。米国政府は国籍の離脱にかかる料金を442%引き上げた2014年秋以降、1,260億ドル(約13兆5,600億円)以上を徴収している。
国務省によれば、市民権の放棄を希望する人が増え、処理すべき書類の量が増えたことが料金引き上げの理由だ。
米国を捨てるのにかかる費用はほかにもある。過去5年間、確定申告を正しく行っていることをIRSに証明しなくてはならない。さらに、総額200万ドル以上の保有資産がある人、または過去5年間の所得税額が平均16万ドル以上だった人は、出国税を収めなくてはならない。これは、出国に伴い資産を売却したものとして算出し、課されるキャピタルゲイン税だ。長期居住者が永住権を放棄する際にも、同様に出国税を支払う必要がある。
多額の支払いが必要になり、支払い不能な金額を請求される人が出るようになって以降も、米国を捨てる人は増え続けている。国籍離脱者の数は、国外から米国に移住してくる人たちの数に比べれば非常に少ない。それでも、自分の国を捨てるという米国民は歴史的にみて、ここ数年よりもずっと少なかった。大幅な増加は懸念すべき現象だ。