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2016.05.09

日本のフロンティアは「限界」の先にある

佐渡島から望む日本海(IZO/shutterstock)


データを「見える化」したことにより、興味深い動きが出始めている。

新潟県佐渡市。同市には、離島ならではの課題がある。事業を島内で完結できないのだ。島内ではりんごの生産がさかんだが、飲料として商品化するためには、長野県の加工会社に委託しなければならない。産業収支を含む域外への流出額が1,090億(2010年)と、資源をうまく活用できていない。

そこで、地元の中小企業が中心となり、生産、加工、販売まで一貫して島内で行う取り組みが動き出している。また、島内の醸造会社は、離島という特性を生かし、東京大学サステイナビリティ学連携研究機構との共同研究をはじめ、水、米だけではなく、太陽光エネルギーも含めた「地域循環型生産」を実現。メイド・イン・サドの製品を海外へ輸出するルートも整えつつある。

こうした「循環型経済」の実現には、企業や起業家などのプレイヤーだけではなく、「サポーター」としての地域住民の参加が欠かせない。「農工商連携や、6次産業化は、人的資源が限られた地方でこそ進んでいます」と前出の永沢はいう。人、モノ、金。資源が少ないからこそ、連携が進み、地元ならではの資源を活用した、世界のどこにもないユニークなアイデアが生まれている。しかも、そこに65歳以上のお年寄りが積極的に関わっている。

一方、一億総活躍社会を提唱する国の中心、東京では高齢者の活用は遅れている。70歳以上まで働ける企業の割合は、全国最下位の15.2%(1位は秋田県の30.9%)だ。リタイア後の高齢者の活用が最大の課題となっている。

しかし、存続こそが命題の地方に「定年」はすでに存在しない。地方は都市部の未来を先駆けているのだ。「限界」に達した底打ちの地方にこそ、世界の未だどこも経験したことのない、フロンティアがあるーー。

東京都西東京市 地域循環率 72.3% −ベッドタウンでは「休日の魅力」が課題

「オール島内産業」に潜在的可能性域外からの雇用者所得が36%(1,875億円)と、ベッドタウンの役割を担う西東京市。しかし休日も市外の吉祥寺などへ買い物に出る住民が多く、2,386億円もの消費が域外に流出。そこで、地域住民らは、駅にマルシェをつくるなど、「土日に楽しめる町づくり」を目指している。

新潟県佐渡市 地域循環率 68.1% −「オール島内産業」に潜在的可能性

事業を島内で完結できず、公的資金、民間消費ともに域外に流出してしまうのが島嶼や半島の特徴。佐渡では産業の移輸出入収支を含む1,090億円が域外に流出しており、地元の中小企業を中心に、生産、加工、販売まで一貫して島内で行う取り組みが動き出している。


出典 RESAS/2010年環境省「地域産業連関表」「地域経済計算」(価値総合研究所・日本政策投資銀行グループ受託作成)
注記 「地域経済循環率」とは、生産(付加価値額)を分配(所得)で除した値であり、地域経済の自立度を示している。「その他所得」は、財産所得、企業所得、交付税、社会保障給付、補助金等、雇用者所得以外の所得により構成される。「その他支出」は、政府支出、地域内産業の移輸出入収支額等により構成される。



文=岩坪文子

この記事は 「Forbes JAPAN No.22 2016年5月号(2016/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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