「モーターボート界のテスラ」を目指す企業 米シアトルで始動

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ワシントン大学漕艇部のコーチを昨年秋まで41年間務め、全米タイトルを8度、オリンピックの金メダルを1個獲得したボブ・アーンストは、「私の日々の仕事にモーターボートは不可欠だ。船外機付きのボートは、スイッチを入れるだけで湖を自在に走行できるのが素晴らしい。騒音や振動がほとんどないというのは、今までのボートではあり得なかったことだ」と話す。

昨年レベルがデモを実演した際、アーンストは2台購入することを即決したという。「これまで見たコーチ用モーターボートの中で一番優れている」と彼は太鼓判を押す。テスラ同様、ピュア・アウトボードも初期モデルは多少値が張る。モーター単体で6,000ドル、バッテリーも1台当たり6,000ドルのものが2台必要だ。ガソリンエンジンであれば、5,000ドルも払えば高品質な製品が購入できることを考えれば、ピュア・アウトボードの価格はかなり高価だ。

しかし、レベルはコーチや漁師のように日常的に使用する人であれば、ガソリン代やメンテナンス費を節約できるため、6年間で初期投資を回収できると主張する。そもそもヨットのオーナーであれば値段はそれほど気にしないであろうし、バッテリー価格は生産量の増加に伴って安くなるので、価格面の問題はいずれ解消されるだろう。

むしろ課題はユーザーの数だ。NCAA(全米大学体育協会)女子漕艇のディビジョン1にはチーム数が90ほどある。男子はトップチームが12ほどあり、ジュニア部門にはさらに多くのチームが存在する。それでも漕艇チームのコーチだけを対象にしていたら普及台数は限定的で、テスラのように環境に影響を与えることは困難だ。しかし、レジャー需要や漁師などにも対象を広げれば大きなインパクトをもたらす可能性がある。

4ストローク船外機による環境汚染量は、自動車のエンジンの10倍とも言われている。アメリカ合衆国環境保護庁の調査でも、温室効果ガスの排出や環境汚染の原因としてモーターボートなど自動車以外のエンジンが大きな割合を占めていることが示されている。

「自動車の燃費を1マイル向上させるには何百万ドルも費用が掛かるが、モーターボート業界ではどのメーカーも燃費向上にそれほど投資していない。このため、モーターボートの燃費は1960年代の車並みしかない」とレベルは話す。

ピュア・アウトボードが1回の充電で走行できる距離は、速度にもよるが28マイル(約45キロ)から69マイル(約111キロ)ほどあり、低速度ならさらに長距離を走行することが可能だという。気になるバッテリーの充電時間は、半分充電するのに240Vの電源であれば約1時間、120Vであれば約3時間かかる。

レベルによると、ピュア・アウトボードの開発には4年を要したという。特に困難だったのが軽量なモーターと特製プロペラの製造や、二つの充電池の間で負荷をバランスさせることができるバッテリーシステムの開発で、「必要な要素の多くが世の中に存在しなかった」とレベルは言う。

レベルは南カリフォルニアで生まれ育ち、幼少期から魚釣りを楽しんでいたという。高校時代から漕艇部に所属し、1980年代に在籍したスタンフォード大学では主将を務めた。彼はドットコムバブル期にCityAuctionという会社を創業し、1999年にTicketmaster Online-CitySearchに売却している。

その後、彼は21フィートのクルーザーを購入したが、ガソリンを扱う手間やエンジンの騒音、メンテナンスなどに嫌気がさし、ピュア・ウォータークラフトの立ち上げを思い立ったという。会社の資本金の大半はレベルが拠出し、社員は今のところ9名抱えている。

レベル自身は自分がイーロン・マスクではなく、ピュア・ウォータークラフトとテスラを比べるのは無理があることをよく承知している。しかし、それでも彼がマスクと比較されることを嫌がらないのは、テスラのように業界をよりクリーンで環境に優しい方向に歩ませたいと考えているからだ。

レベルは、あえて自社をテスラに例えるとしたら、「テスラが大衆車のモデル3を最初に開発したようなもの」と話す。今のところはモデルSやモデルXに相当するハイエンド製品を開発する予定はないという。

編集=上田裕資

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