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2016.05.02

「人工知能に敗れた囲碁棋士」は他人ごとではない

グーグルの人工知能「AlphaGo」と対局する囲碁棋士のイ・セドル九段 (Photo by Google via Getty Images)


適切な「問い」を作り出す力が重要に

これは人間にとって幸せをもたらすのか脅威なのか-という議論はすでに活発だ。実際にスティーブン・ホーキング博士が警笛を鳴らしているように、人間にとって重大な脅威になるかはわからないが、少なくない規模の雇用を奪うかもしれない。そもそも歴史的には人間は楽をするために一生懸命努力をしてきた。産業革命で蒸気機関が出てきて、工場で機械化が進んだ時、まったく同じような議論が起きた。さらには一部雇用を奪われたと勘違いした作業員が機械に八つ当たりして破壊をしたというようなエピソードもある。しかし、実際は雇用が奪われたというよりも、新しい需要や産業を生み出し、経済はより発展していった。

私はプロの投資家で、現状では日本株の運用では、ほとんどのファンドマネジャーよりも高い成績を出している。しかし、今後はわからない。もうすでに始まっている、ロボットファンドマネジャーによる運用が人間よりも優秀な成績を出す可能性は高い。今後の私の重大なライバルは、AlphaGoなどの発展によって開発される未来の株式取引システムになっていくだろう。だから私にとってイ・セドル棋士は他人ごとではない。

すでに株式投資の世界ではこのような現象が起きており、短期取引については、「アルゴリズム取引」というコンピュータの自動売買システムが幅を利かせている。高速売買を繰り返して、薄い差益を瞬時に稼ぎながら、最終的には膨大な利益を叩き出し始めている。

私の投資スタイルは長期投資で、経営者と対話し、経営者の考える未来像が現実的になるかどうかを重要な判断基準にして投資している。経営者の頭の中を想像するのは、現状ではコンピュータの解析ではなかなか難しいところだ。この分野にAIシステムが入り込むのは難しいだろう。

しかし、長期投資においても、AIシステムが入り込んでくるだろう。その時、私がとるべき対応方法は2つだろう。AIが使用できる範囲は積極的に活用をしていく。一方、AIが入り込みにくい領域の優位性をなるべく長く維持をしていくことである。

AlphaGoの衝撃は決して読者諸氏にも他人ごとではないはずだ。将来的に私たちの上司がAIになるかもしれないことを意味している。根回しをしたり、仕事ができるアピールのような「サラリーマン処世術」のようなものがまったく通用しなくなるかもしれない。働くということの意味や意義を問い直し、AIにとって代わることのできない付加価値を探していく必要がある。

その中では、いままでは「問い」と「答え」では、「答え」を出す力が長らく重要視されてきた。特に日本の教育ではそうだ。しかし、答えを出すという力は今後、AIにかなわなくなる可能性がある。10年後、スマートフォンがAlphaGo程度のAIシステムを持っているのが当たり前になるかもしれない。そのような環境下では適切な「問い」を作り出す力が評価されるに違いない。

藤野英人 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.21 2016年4月号(2016/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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