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フォーブス誌エディター。わが人生の基盤はビジネスと社会貢献活動、そして食べ物!


その後、彼はその金額に4つ近いゼロを加えるようになる。そして、自分の純資産額を多めに喧伝する技を磨いていった。本誌の編集部には、よく目立つ金色の専用レターヘッドが入った財務文書が、彼からしばしば送られてきたものだ。

「私たちは申告された純資産額をまずは3で割り、そこから精査するようになった」と、初回から15回目までの「フォーブス400」の選定作業を担当したハロルド・セネカーは振り返る。実際、その「まずは3で割る」方式は、80年代を通して有効だった。たとえば本誌が初めて10億ドルの評価額をつけた88年にも、彼はビリオネアの仲間入りに満足せず、実際は37億4,000万ドルだと反発している。

トランプが資産額を過大申告したがるのは、部分的には経営面の事情によるものだ。事実、彼は「資金調達に都合がよかったから」と認めている。他の不動産開発業者からも、同じ主旨の話を聞いてきた。高い評価額の書かれた「フォーブス400」のリストを銀行家のデスクに叩きつけると、より多額のローンを、より低利で借り入れられるという。経済的な成功が「トランプ」というブランドの価値を決めたのだ。

タフで計算高い“セールスマン”

取材の当日、トランプは私に自社ビルのスケッチや航空写真を見せ、トランプ・タワーのツアーまで催した。ツアーのスタート地点は息をのむほどの眺望が得られるジムだった。それを見せれば、トランプ・タワーに対する評価を5億3,000万ドルから数倍に膨らませられると考えているらしい。

彼は、トランプ・タワー最上部の住まいへの案内を申し出た。どうも彼にとっては選対会議よりも大事なことのようだ。3階分を占めるそのペントハウスにフォーブスの評価額(=1億ドル)の倍の価値があると証明したいらしい。きらびやかな“中空のベルサイユ”を見せるという申し出に、それ以上の売り口上は不要だ。しかし、トランプという男はこう加えずにはいられない。「我が家の1階を見せてあげよう。これまで一度も公開したことはないんだがね」

実際は違う。テレビ番組にも、米誌「ニューズウィーク」にも公開している。2000年には本誌のカメラマンも入っている。だいたい、翌日のテレビ番組のインタビューもそのペントハウスで収録され、1,500万人の視聴者が観るのだ。だが、トランプはそうした些事のために、うまいセールストークをふいにしたりはしない。

ところが、そんなトランプにも90年は逆風が吹いた。ニューヨークの不動産市況が暴落。所有するカジノは経営不振に陥った。航空会社も赤字を出した。本誌が89年時点で17億ドルと評価した彼の純資産額も、翌年の春には5億ドルに激減。同年秋までに借り入れ過多のトランプは無一文に近くなり、「フォーブス400」から脱落した。彼は反論したが、あまり説得力はなかった。

「君らにキャッシュフローの数字を見せよう。これまで誰にも見せたことはないがね」と、彼はおなじみの口調で語ったものだ。しかし、その紙片は最後の行を隠すように折られていた。トランプは40億〜50億ドルの資産があると公言していたものの、彼が政府に提出した資料によれば、89年5月時点の純資産額はわずか15億ドルだった。これは彼が我々に主張してきた金額の3分の1であり、本誌の保守的な推計をも若干下回る数字でしかない。

翻訳=町田敦夫

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