ブロックチェーンの旗手 「Chain.com」が描く未来

チェーン・ドットコムの創業者アダム・ルドウィン、ライアン・スミス、デボン・ガンドリー (photographs by Christian Peacock)


JPモルガンCEOのジェイミー・ダイモンは、15年4月に株主に送った書簡で、「シリコンバレーが迫りつつある」と書いている。既存のプレイヤーが技術革新の脅威に直面した場合の典型的な反応は、レコード業界がナップスターを相手取って起こした訴訟のように、それに抵抗しようとするか、インターネットの発達に対して従来のメディア企業が見せたように、対応が後手に回るかである。

大手金融機関は、ブロックチェーン技術を積極的に取り込み、従来のこうした傾向を破ろうとしているようにも見える。しかし、スタンフォード大学のアテイ教授は、大手金融機関が「手数料が収益源となっており、既存のシステムから利益を得ているため」、会社として、新たな技術を推進することが難しいという古典的なジレンマに直面していると指摘する。

そうした指摘を知ってか知らずか、ナスダックCEOのグレイフェルドは、ブロックチェーンがナスダックの収益にどう影響する可能性があるか、という質問にこう答えている。

「顧客に価値を提供する優れた方法を見つけること。それができれば、数字は後からついてくるというのが私たちの考え。つまり、『世界を変えられる方法を見つけようじゃないか。そうすれば、自ずとリターンはついてくる』ということだ」

一方、既存の金融機関の間に、匿名のコンピュータで構成されるネットワーク上で巨額のトランザクションを実行することに対する不安があることは、ルドウィンも理解している。そのため、チェーンは、認証済み帳簿を基盤とした大手企業向けプロジェクトも進めている。さらに、サイドチェーンの創設も検討している。サイドチェーンとは、特定の業界向けに作られた、ビットコインの公開ブロックチェーンを繋ぐためのブロックチェーン。

しかし、ルドウィンは、「結局のところ、ビットコインの公開ブロックチェーンとクローズドの認証済み帳簿のせめぎ合いは、かつてのVHSとベータの戦いに近いものだ」と考えている。長い目で見ると、戦いがあったことなど、誰も覚えていないし、気にもとめない。既存の金融機関にとって、最も重要になるのは、即座に行動できるかどうかと、共有帳簿技術が作り出す新たな世界に順応できるかどうかである。

チェーンが目指しているのは、戦略的パートナーとして、ブロックチェーンを使った新たなエコシステムや商品を考案し、構築する企業の取り組みを支援することだとルドウィンは言う。チェーンは、これまでに複数の大手金融機関や大手通信会社、大手エネルギー会社など、10社以上の大手企業と協力関係にあるとルドウィンは明かしてくれた。その他にも、100社以上のスタートアップとも協力関係にある、という。

「現在、取り組んでいることについて、より多くを共有できればいいのにと思います。ただし、“石油”を掘り当てても、すぐに公にはしないですがね」

Chain.com(チェーン・ドットコム)
2014年創業。ブロックチェーン技術を用いたP2Pの資産取引プラットフォームを提供する。創業まもなく米ナスダックのパートナーに選ばれ、ブロックチェーンを使った未公開株式市場向けの分散型取引プラットフォーム「NasdaqLinq」を構築。2015年9月、ナスダック、ビザ、シティ・ベンチャーズ、仏通信企業オレンジなどから3,000万ドルを調達した。

ローラ・シン = 文 クリスチャン・ピーコック = 写真 町田敦夫 = 翻訳

この記事は 「Forbes JAPAN No.21 2016年4月号(2016/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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