ブロックチェーンの旗手 「Chain.com」が描く未来

チェーン・ドットコムの創業者アダム・ルドウィン、ライアン・スミス、デボン・ガンドリー (photographs by Christian Peacock)


この判断は賢明だった。ナスダックは15年5月、既存の金融サービス会社の先陣を切って、ブロックチェーンを使った実地テストの開始を発表。チェーンをパートナーに得たナスダックは、ブロックチェーンを使った、ウーバーやエアビーアンドビーのような未公開株式の取引決済を12月30日に開始した。

だが、それは最初の一歩に過ぎない。ナスダックCEOのボブ・グレイフェルドは、「(ブロックチェーンは)現時点で考えられる向こう10年のチャンスの中で、最高のもの」と語っている。

そう考えているのはナスダックだけではない。シティグループ、ビザ、バークレイズ、バンク・オブ・ニューヨーク・メロン、UBSなどの金融大手は、ブロックチェーン技術の試験を進めようとしている。一方、ニューヨーク証券取引所やゴールドマン・サックス、軍人を対象に金融サービスを提供するUSAA、ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)などは、ビットコイン関連のスタートアップに投資している。

こうした金融サービス大手は自らを窮地に追いやる企業に資金を提供している—。確かにそうだが、これは適切な判断でもある。大手の金融機関は、ブロックチェーンによって、どの分野から利益が奪われるのかを早期に特定することが必要と語るのは、世界最大の会計事務所であるデロイトで銀行テクノロジーを担当するエリック・ピッチーニである。さらに、「どこかの誰かの餌食になるのを待つのではなく、自分自身を食うべきかどうか」を決断することが欠かせないと付け加えている。

いずれ大銀行の力を奪う可能性を秘めたこのテクノロジーが誕生したのは、奇しくも、金融危機の混乱の最中であった。08年10月、ビットコインの生みの親であるサトシ・ナカモトと名乗る人物が、論文の中で、オンラインでの送金・決済方法を根本から覆すプロトコルを提唱した。

従来、インターネット上では、コピーされた情報がやり取りされてきた。たとえば、AがBにメールやドキュメント、テキスト、写真などを送る場合、Aのコンピュータにはそのオリジナルが残る。しかし、AがBにビットコインを送る場合、まず、システムによって、Aが支出可能なビットコインを保有していること、不正の疑いがないことが確認され、次に、Aが送金するビットコインのコピーを隠れて保有していないことや、ビットコインを他の送金や支出に使っていないことが確認される。つまり、理論的には、地球上のどの場所にいようと、銀行を介すことなく、2人の人間が資金をやりとりすることが可能である。

「情報のインターネット化」とは一線を画すこのいわゆる「価値のインターネット化(IoV)」は、世界中に散らばった参加コンピュータで構成されるネットワーク上に置かれた共有帳簿を管理し、ビットコインの移転が記録されたブロックを10分程度の間隔で更新することにより成り立っている。

この帳簿は、ブロックを鎖のように繋げたものであり、そのために「ブロックチェーン」と呼ばれている。一般的に、資金決済には、米国内取引の場合で2〜3日、国外との取引では、最大で5日が必要であり、この10分という時間は、決済に要する時間を大幅に短縮するものである。

「銀行が利用者の資金を長く拘束することで利益を得ていた時代や、為替取引の手数料から高い利鞘を得ていた時代は終わる」。そう予言するのは、スタンフォード大学ビジネススクールで経済学を教えるスーザン・アテイ教授だ。
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ローラ・シン = 文 クリスチャン・ピーコック = 写真 町田敦夫 = 翻訳

この記事は 「Forbes JAPAN No.21 2016年4月号(2016/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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