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イノベーションの土壌をつくる

セパレーションを「動機」と「スタンス」の2軸で整理すると図のようになる。このうち、右上の象限に該当するものを筆者は「ハッピーセパレーション」と呼んでいる。苦渋の決断を茶化すわけでは決してないが、切り出す側と切り出される側の双方にとってハッピーな結果になる可能性は高い。

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切り出す側にとっては、自社の方向性とは合わなくても事業としての将来性が見込まれるうちに切り離すため、ある程度高値で売れることが期待できる。切り出される側からしても、タイミングよい決断は、売却ならば売却先では将来性ある事業として投資がなされ、上場ならば資本市場からの調達の目算が立てやすい。また、その事業に従事する働き手の処遇も、追い込まれた状況のリストラクチャリング・モードのような不安と不安定を引き起こさずに済む。

では、イノベーションという視点からはどうか。端的に言えば、自社の強みが活きる、勝てるビジネスの創造に貴重な経営資源をフォーカスすることに繋がる。イノベーションには金がかかる。特に新たな世界を構築するようなビジネスを生み出すには小さなタネの獲得を含めた試行錯誤が欠かせず、相当の資源投下が必要となる。

また、親交のある早稲田ビジネススクール入山章栄准教授とよく話題にする「両利きの経営」の実現にもセパレーションはよい契機になると考える。企業が持続的に成長するためには「知の探索=新領域の創造」と「知の深化=既存領域の改善」の両立が必要だが、企業には既存の深化に引っ張られる「コンピテンシートラップ」という特性があり、組織構造は既存ビジネスの「ドミナント・デザイン」に染まりがちである。姿かたち、思考と行動の特性からして、大企業になるほど本質的にイノベーションとは距離ができてしまうのだ。それらから解放し、企業体にリバランスをもたらし得るセパレーションは、イノベーションの土壌やカルチャーの再醸成によい機会となろう。

セパレーションにより、強みへのフォーカスが進む半面、「自前」を捨てることで、経済学者シュンペーターの定義するイノベーションの肝である「組み合わせ」の機会が減ることを心配する向きもある。しかし、現代において革新を起こすイノベーションには、外部との強みと強みの組み合わせが欠かせない。そこで、「オープン」「ネットワーク」「エコシステム」が声高に言われる時代において第三の成長手段ともいえるアライアンスがより重要になる。セパレーションでフォーカスすると同時に、アライアンスの能力を持ち合わせていくことで“イノベーションへの備え”は整備されるだろう。

日置圭介◎デロイト トーマツ コンサルティング グローバル マネジメント インスティテュート 執行役員 パートナー。早稲田大学大学院会計研究科非常勤講師。

日置圭介 = 文

デュポンヒューレット・パッカードゴールドマン・サックスシーメンスフィリップスデルヒューレット・パッカード・エンタープライズメットライフ

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