そうしたなかでのマイナス金利は、短期的には強い負の作用を伴う政策かもしれない。それでも、長期的には日本経済には有意義な政策だと私は考えている。
短期的にはマイナス金利の影響を直接受ける金融セクターに悪影響が出るので、市場はまず銀行株の下落という洗礼を受けるだろう。欧州のマイナス金利の影響で、銀行株が軒並み3〜4割下落したことも投資家心理としては大きい。実際、金融セクターの株は大幅に下落している。
また、日本は明白な課題を抱えている。消費不足・投資不足である。現金を必要以上に貯め込み、それが成長セクターに回っていない。マイナス金利は資金を持つことに対してペナルティを課す政策なので、資金を回していくことが求められる。
本連載では以前、日本人には2通りのタイプがいると話した。それは、「希望最大化戦略」を採る人たちと、「失望最小化戦略」を採る人たちのことである。
「希望最大化戦略」型とは、成長することが大好きで、学び、挑戦し、友人を増やすことを是とし、外にチャンスを求めていくタイプの人たちである。彼らは努力が報われると信じている。消費や投資にも積極的だ。「フォーブス ジャパン」の読者諸賢もこのタイプであろう。
一方で「失望最小化戦略」型とは、悲観的で努力を否定し、節約が大好き。消費も投資も嫌いで、できれば息をするくらいで、他にはなにもしたくないという消極的な考え方が目立つ。
アベノミクスは、前者を育てて後者を減らそうとする政策だ。政府のメッセージが十分に伝わらず、最近は成長戦略に対する力の入れ方が中途半端なため、金融政策ばかりが悪目立ちしているが、アベノミクスや黒田東彦総裁の狙いは日本人の挑戦心に火をつけ、貯め込んでいる現金を消費や投資に回すことにある。
ところがアベノミクス相場にもかかわらず、「失望最小化戦略」に縛られた人たちが増えているように思える。だから、黒田総裁はマイナス金利という形で揺さぶりをかけているのだ。
マイナス金利は、「希望最大化戦略」型の人には大きな“追い風”である。設備投資や消費、そして投資をすることが大きなチャンスになるからだ。効果が表れるには時間がかかるだろう。景気は下降局面に入ってはいるが、それを立て直すのは日銀でも政府ではなく、国民一人ひとりのがんばりだ。
よりがんばった人が、成果を得るーー。そんな社会になることがのぞましい。