社会人4年目。本来なら責任のある仕事をこなすようになっていたであろう時期に、私は入社以降取り組んできた事業の撤退作業に追われていました。唯一の息抜きは、帰宅後に見る深夜番組という毎日。著者である村田昭治氏は、その深夜番組の出演者でした。
村田氏は、日本のマーケティング論の第一人者として慶應義塾大学で教鞭を執る一方、番組では最新のトレンドを解説していらっしゃいました。取り上げる商品の良さを瞬時にとらえたコメントが小気味よく、見る人を前向きにさせてくれたのです。そんなポジティブさにはまり、発売直後の著書を迷わず購入したことを今でもよく覚えています。
さて、本書のテーマである「マーケティング」は、モノを売るための仕組みや技術だと考えている方は多いでしょう。
しかし村田氏は、「マーケティングは、ホスピタリティー(おもてなしの心)だ」と定義しています。そして、「ハートフルな考え方をもつ企業からサービスフルな行動が生まれ、そこから喜びに満ちた顧客が生まれて、その企業がパワフルになっていく」とも教えています。
あ、英単語が続きましたね。本書は実際に行われた講義を書き下ろしているため、彼独特の言い回しが随所にちりばめられています。語り聞かせのように頭にしみこみますよ。
さて、話を戻しましょう。つまり村田氏は、「お客様一人ひとりに精一杯のおもてなしをすることで、満足いただけるサービスが生まれ、お客様の喜びが企業自体を強くする」と書いています。優しさと強さは表裏一体で、どちらか一方でも欠けてはいけない存在なのだと。その言葉で、私は初めてマーケティングが腹落ちしたような気がしました。
独立後、Webマーケティングを提供する会社を設立し、昨年3月に上場するまで全速力で走り続けてきました。ようやく落ち着いた4月下旬、村田先生の訃報を耳にしたのです。
余裕なく働いた数年間、私は心のこもった仕事ができていたのだろうか。すべてのお客様にご満足いただけたのだろうか。再読した本書は、24年経っても少しも色あせることなく、私に振り返るきっかけをあたえてくれました。
驚嘆したのは、彼の教えが我が社の理念やサービスに力強く生き続けていること。マーケティングとは何か、仕事とは何かを腹落ちさせてくれた教えは、私の潜在意識の中にしっかと根付いていたのです。
Webマーケティングは「おもてなし」そのものです。無機質になりがちなインターネットと人を繋ぎ、ハートでくるむ仕事です。見やすく、わかりやすく、入力しやすいWebサイトを作り続け、より豊かなネット社会を創りたい。ITではなく、いつでも人が主人公なのですから。
title:村田昭治のマーケティング・ハート 学ぶことのたのしさ
author:村田昭治
data:プレジデント社 1,500円+税
もり・まさひろ◎1988年、リクルート入社。インターネットメディア事業の企画・開発・営業や新規事業開発を経験。96年、フューチャーワークスを設立、2005年、スマートイメージを吸収合併し、ショーケース・ティービーに社名変更。15年3月、東京証券取引所マザーズ市場へ上場。