キャリア・教育

2016.04.20 10:31

次世代リーダーは、なぜ「哲学」に注目するのか?

Anastasios71 / shutterstock

欧米のビジネススクールが、哲学に力を入れ始めた。「役に立たない」とさえ言われていたのに、なぜ?早稲田大学ビジネススクールで「組織と哲学」という講義を行っていた西條剛央に聞く。

Q:近年、欧米のビジネススクールでは哲学の講義に力を入れるようになっています。なぜだと考えられますか?

西條剛央(以下、西條)もともとビジネススクールは、実証主義的な、科学的なエビデンスに基づく経営というものを重視しています。でも、よく考えれば、その限界はすぐにわかります。

なぜかと言うと、経営学とは社会科学であり、社会科学と自然科学の違いというのは、「物質」と「社会」の違い、と言えばわかりやすいかもしれません。水は変わらないけれど、社会は変わる。どんなに厳密に統計を駆使しても、社会そのものが変わってしまったら、その知見は一般化できなくなるんです。

例えば、2010年に原発の意識調査を行って、それが統計的に一般化できる知見として提示されたとしても、それは今の社会に一般化できるかと言えば、できない。11年を境に社会全体が変わってしまったからです。

Q:西條先生も「組織と哲学」という講義を担当されていました。具体的にどんなことを教えていらっしゃったのですか。

西條:私は「構造構成主義」という、物事の本質をとらえる学問について研究してきました。「科学とは何か」「方法とは何か」といったことについて、社会の状況がどんなに変わっても、この考え自体は普遍的だといえるものを追求する。例えば、時代が激しく変化するいま、「特定の方法」の有効期限はどんどん短くなっています。しかし、「方法の有効性は状況と目的に応じて変わる」と“方法の本質”には例外がなく、いつの時代、どこの文化でも使うことができます。

授業でも、物事の本質を掴むための「思考法」を身につけられるよう実践的な演習を行っていました。例えば、「挨拶」とは何か。ある人にはするけれど、皆にするわけではない。でも、挨拶がない国ってきっとない。登山をしているときには比較的挨拶をするけれど、道端で突然挨拶をしたら驚かれる場合もある。挨拶って何なのだろう?人はなぜ挨拶をするのだろう?

授業では、そうした問いを投げかけていました。そのとき得られた答えが、「相手の存在を肯定する最も簡単なサイン」というものでした。

そう考えると、職場で挨拶をしないというのは、いちばん簡単な存在承認すらしていない、ということになる。いわば存在否定をしているわけですから、そんな職場が、うまくいくわけがない、ということを論理的に理解できるようになります。
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古谷ゆう子 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.21 2016年4月号(2016/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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