だからこそサウジアラビアは、原油価格が20ドルのラインを切ろうとしていたこの1月に、減産ではなく生産量の据え置きを提案したのだろう。生産量据え置きであれば、原油価格は1バレル当たり20~40ドルの幅に留まるだろうが、減産するとなると価格が40ドルを超えて上昇してしまうのではないかとの読みだ。
なぜ価格が40ドルを超えることが、サウジアラビアにとって悪いことなのだろうか。それは、近年サウジから原油価格決定力を奪いつつあるアメリカの採掘業者を延命してしまうことになるからだ。
さらにもう一つ、より重要な問題を投機筋は指摘する。それは、「原油価格が上昇すると、ロシアとイランが、サウジの政権を脅かす敵対勢力を支援する資金を調達できてしまう」ということだ。また、「安値を維持しておけば、ロシアとイランに対抗するアメリカを助けることができ、かつ、ロシアとイランの資金提供を幾分防ぐことで、サウジが優位に立つことができる。サウジ王族はまだ権力を放棄するつもりはない。現時点で権力を維持する唯一の方法が、原油価格を安く保つことなのだ」と語っている。
別の情報筋は、「現状では原油が市場に意図的に過剰に供給されて、ISISやプーチンが野望に打って出る資金が枯渇するように価格が抑えこまれている。原油価格の下落が、プーチンのウクライナ侵攻の時期に重なったことは偶然ではない」と分析している。
公正を期すため、ロシアがサウジアラビアの生産量据え置きの提案を受け入れてきていることは指摘しておきたい。しかし、産油国が表向きにいっていることと、実際にやっていることとは必ずしも同じではない。4か国による生産量据え置きといっても、1月の生産量はここ数年でもっとも高水準だったため、世界の需給調整にはまったく影響しなかったとの分析もある。
原油価格が高すぎることはサウジ王国にとって良くないことであるとは言え、安すぎるのもまた、別の理由で良いことではない。つまり極端な原油安になると、サウジは財政予算や社会保障予算を維持することが難しくなるからだ。第3の情報筋は、「サウジが予算を均衡させるには、80ドルを超える原油価格が必要になる。原油価格の低下により、昨年サウジは900億ドルの財政赤字を計上している」と分析している。
サウジが国家予算を維持するためには、これまでにもやってきているように、外貨準備高を取り崩すなど他の方法もある。しかし、こうした資金は底をつくのも早い。第4の情報筋は、「サウジの外貨準備の取り崩しに急いでいる、原油価格崩壊前に高水準にあった準備高も、ある程度社会秩序を維持するためには、早晩回復できない水準にまで落ちこむことだろう。過去10〜15年、サウジの社会保障プログラムのコストは何倍にも急増しており、社会不安をひきおこすことなく、この流れを撤回していくこともできない」と見ている。
資本市場でも、サウジアラビアはすでに数十億ドルの国債を発行している。さらに、国有資産売却の可能性もある。
国家財政の維持のためには、原油価格が1バレル20〜30ドルであることが必要であり、実際、サウジアラビアは2016年の想定原油価格を1バレル当たり29ドルに置いている。それでも、こうした板挟みの状態を続けていくことは難しく、サウジアラビアは最終的には、高い原油価格と低い原油価格のどちらが自国の経済と政治の未来に悪影響が大きいのか、決断を迫られることになろう。