クアルコムジャパン元社長でエンジェル投資家の山田純は、創業直後に投資を行い、15年9月には社外取締役に就任した。
稲田:はじめてお会いしたのは、13年の創業直後。まだプロダクトもない段階でしたが、「ものづくりの民主化」というビジョンや事業計画を数枚のパワーポイントとともに語りました。
山田:私は当時、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェイス)を公開して様々なプログラムがつながり新たな価値を生む“ソフトウェアによる化学反応”が、ハードウェアやものづくりの世界でも起きるのではということに関心がありました。そんなとき、稲田さんから「ものづくりの民主化」というビジョンを聞いた。よくわからないから、根掘り葉掘り聞いていくうちに、話が盛り上がり、意気投合し、投資へとつながりました。稲田さんと話をして気がついたのは、ソフトウェアのオープンソースコードが、ハードウェアの設計図のデジタルデータと同じではないか、ということ。そのデジタルデータが流通すればものづくりにイノベーションが起きる可能性が広がるということです。
稲田さんはそこをうまくとらえた事業をしたいんだ、だから非常に面白い、と。彼の取り組みによってすっきりと自分の頭の中が整理され、ハードウェアの世界でも、イノベーションがきっと起こるという確信を持てた。そこが投資をした一番のポイントです。
稲田:「ものづくりの民主化」というビジョンは、今も変わっていません。最終的には、何でもワンクリックで作れるようにしたい。自動車、ロボット、ウェアラブル端末、最終的に誰でも何でも作れる。次のソニー、次のパナソニックが1,000社生まれるインフラを作りたい。それができれば、圧倒的にいい製品が出てきますし、圧倒的に世の中がよくなる、と。
そのため、現在は、(1)CtoCのマーケットプレイス、(2)BtoBのエンタープライズ向け、(3)BtoFと呼ぶ工場向けソリューションの3つの事業を行っています。BtoFは8割が欧米の顧客でグローバル展開もしています。
山田:稲田さんが起業家として優れている点は、毎月、必ず投資家や主なステークホルダーを集めて、きちんと現状と今後についての情報開示を行うことですね。包み隠さず共有し、先々のアイデアを必ず述べる。すると、我々もできることやアイデアを伝えて、いい循環が起きる。投資家をより応援したい気持ちにさせる立派なオペレーションだと思います。
稲田:我々も逆に「お願い」を毎月、出し続けています(笑)。私は人工知能の研究をしていたこともあり、「適切な多様性」が重要だと思っています。偏った認識やエリート集団では、この世界は変えられません。山田さんには社外取締役になっていただいたので、シリコンバレー企業の多様な社外取締役が集まるボードミーティングのように、バトルをしたい。“適切なバトルをしないと、新しいものは生まれない”と思っていますから。
山田:「Rinkak」は今、3Dプリンターを活用するプラットフォームとして認識されつつあります。今後は、3Dプリンターだけでなく、「製造技術を自在に組み合わせられるものづくりプラットフォーム」として進化することを期待しています。楽しみですね。
やまだ・じゅん◎エンジェル投資家。1978年、東京大学工学部電子工学科卒業後、松下通信工業入社。デジタル移動通信システムの開発設計、米国での移動通信システム開発プロジェクトのリーダーなどを経て95年退社。98年、クアルコムジャパン設立にあたり入社。2005年3月より12年5月まで社長を務め、現在、同社特別顧問ならびに会津電力副社長。
いなだ・まさひこ◎カブク代表取締役CEO。大阪府出身。2009年、東京大学大学院修了(コンピュータサイエンス)。大学院にて人工知能の研究に従事。修了後、博報堂に入社。新規事業開発に携わり、カンヌ、アドフェスト、ロンドン広告祭など受賞歴多数。13年にカブク設立。主な著書に『3Dプリンター実用ガイド』などがある。