キャリア・教育

2016.04.16 16:01

川上量生x竹内 薫、私たちが「新しい学校」をつくる理由

[左]N高等学校を開校するカドカワ社長、川上量生[右]MIRAI小学校を設立予定のサイエンス作家、竹内薫 (photograph by Koichiro Matsui)


“競争優位性”を築くためには
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—竹内が手掛けるMIRAI小学校では、1年生からプログラミングを学び始め、図画工作の授業では、レゴのロボットをプログラムで操る内容も盛り込む予定だ。既存の教育にはない、長年サイエンスに携わってきたからこそ、実現可能なプログラム。それはきっと、好奇心を育てる授業となるはずだ。

竹内:僕が小学校をつくりたい、と考えた理由は、身近なところにありました。娘が5歳で、英語の保育園に通っていて再来年には小学生になるのですが、小学校はどうしようか、と考えても行く先がない。

僕はずっとサイエンスの仕事をしてきて、例えば算数の授業はどうかな、と見ていると、おかしなことを教えているんです。
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例えば、「車が5台あります。3台新しくきて、そこに駐車しました。全部で何台でしょう」という問題に、5足す3は8ですけれど、3足す5は8って書くとバツにされるんです。そんな事例がありまして。算数の演算では足し算とかけ算は交換できるから、先生がそういうことはやってはいけない。

それに加えて、理科の実験ができない先生も多い。僕らが子供の頃は、理科実験をすごく楽しくてやっていたわけですよね。これはまずいな、と思ったんです。

川上:小学校って、つくれるものなのですか?

竹内:まず文科省に行くと、「学校はつくるものではありません。行くものですよ」と言われたんです。学校法人はつくれませんよ、と。「どうしてもつくりたいんだったら、まずは30億円をキャッシュで用意してください」みたいなことを言われました。

ところが、国のほうでは規制緩和をしていらっしゃる方がいて。内閣府ですね。そこでは「株式会社でつくってしまえばいいんですよ」と言われました。文科省の教育課程特例校というのが実はある。5,000万円でつくれます、と。それだったら、個人出資で集めたらなんとかなるかなと思い動き始めたのが半年前のことです。

最初に「英語の学校をつくりたい」と言った時には、周囲のみんなは「えー、英語の学校ですか?」という、後ろ向きな反応でした。

そこで「いやいや、英語だけではないんですよ。1年生からプログラミングをやるんです」と言って、「ほら、もう人工知能が来るじゃないですか。ロボットが来るじゃないですか。量子コンピュータも来るじゃないですか」と言っていたら、「確かにそうですね」と、少しずつ周囲の反応が変わってきました。「安倍総理が第4次産業革命って言っていますよね、あれですよ」と言ったら、ようやく重要性が伝わったのか、一気に応援団が増えたんです。

プログラミングってやっぱり必須ですよね。N高等学校では、ドワンゴのエンジニアが実際に教えてくれるんですね。それはいいですね。

川上:問題は目標をどこに置くかということなのですが、どうすれば世間で通用するかを考えると、やはり「大学に行く」ということと、「就職ができる」ということ。おそらくこの二つができて、初めて高卒というのに意味が出てくると思うんです。

その二つの結果を出さないとしょうがないな、という考えはあります。うちはIT企業なので、プログラマーだったらつくれるだろう。そこは自信がありました。

竹内:うちの学校も、じつは「先生」を育てたいとも考えているんです。プログラミングも英語も、ちゃんと教えられる先生を。

若い先生たちに来てもらって、理科実験のやり方をこちらで鍛えたいなと思っています。そうしたスキルを身につけた先生をほかの公立小学校にも送り出す。そんなことを続けていると、10年くらい経てば教育の現場も変わると思うんです。

プログラミングは、基本的にやっておいて損はないと思います。

川上:多分、一番つぶしが利きやすいジャンルですよね。

竹内:そうですよね。社会が便利になっていく、機械化されていくわけじゃないですか。そういう時は、やっぱりそちら側に回った方がいいわけですよね。

—課外授業のような思いきりリアルな体験と、高度なデジタルスキル。これからの時代は、異なる二つの専門性を持つことが大切ということなのだろうか。

竹内:理系、文系と分けてはダメだと思うんです。そういった分類って、明治時代なんかに勝手につくられたものであるから。全然違うものを、自分が好きなものを特化してやっていくと、伸びるんじゃないかと思います。

川上:僕が思うのは、社会システムの中では汎用品の人材が生産されていて、汎用品のなかでちょっと違う存在になろうと思ったら、それ以外のことを学ぶのが最も簡単で有効な方法ですよね。それだけの話だと思います。

竹内:異なる二つのことを学ぶと、融合することができるじゃないですか。一つしか勉強していないと、そのなかでトップになるのは凄く大変ですから。極めない限り無理なので。

川上:誰もいない、競争相手と比べられないところ。競争が激しいところというのは、一生懸命やらないと生き残れないけれど、競争が激しくないところではなんとかなるので。人生としても絶対そっちの方がいいと思うんですよね。


[MIRAI小学校とは?]
サイエンス作家、竹内薫が2017年4月に開校予定の「日本人のための英語の小学校」。今年4月からはアフタースクールとしてスタート。株式会社として運営し、英語、日本語、プログラミング言語を3つの柱とする。小学1年生からプログラミングアプリで遊びながら学ぶ授業を始める。既存の小学校では、プログラミングを教えられる教師が少なく、用意されたパソコンが埃をかぶっているという パターンも少なくないことから、教師の育成にも力を入れたいと考える。将来的には、日本各地にMIRAI小学校をつくりたいという夢を持つ。

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フォーブス ジャパン編集部 = 構成 松井康一郎 = 写真

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