川上量生x竹内 薫、私たちが「新しい学校」をつくる理由

[左]N高等学校を開校するカドカワ社長、川上量生[右]MIRAI小学校を設立予定のサイエンス作家、竹内薫 (photograph by Koichiro Matsui)


教養から得た結論で引っ張っていく

—ここから、特集のテーマであるリーダーシップの話題へ。これからの子供たち、これからのリーダーにはどんなスキルが必要なのか、と尋ねてみると……。

川上:リーダーシップという概念自体に、僕は疑問を持っています。リーダーシップって何だろう、と考えると、世の中複雑ですよね。ある一人の人間がすべての知識を身につけることはできない。

リーダーというのは、そのなかで全体を率いなければいけない。では、リーダーがやるべきことは何なのかと言ったら、分からないことを、確信を持てないことを無根拠にやるだけですよ。一種、集団でバカになる役割を持つ。それがリーダーシップですね。

僕としては、リーダーシップを発揮しなきゃいけない人間はもう少し教養を持て、と言いたいですね。リーダーシップを鍛えてどうするんだ、と。リーダーこそ、幅広い知識を持っていなければいけないはずなんです。リーダーシップというものを鍛えてもダメなんです。僕はそう思います。

竹内:僕も、いまの日本に欠けているものは、教養だと思うんです。別にアメリカがすべて良いと言うつもりはまったくありませんけれど、いつも思うのは、「サイエンティフィック・アメリカン」という雑誌がアメリカで50万部売れているんです。駅の売店でも売っているし、電車のなかでビジネスマンが普通に読んでいる。

川上:一応日本でも、「ニュートン」はコンビニには置いてありますね。

竹内:そうですね。「サイエンティフィック・アメリカン」って「ニュートン」と比べると、結構突っ込んで書いてあるんですよ。それなのにアメリカ人が50万人も読んいるのって、どういうことだ、と考えてしまう。

科学だけでなく、哲学とか音楽とか、色々あるじゃないですか。ライトノベルでもそうですよ。そういったものからどんどん吸収することが必要だと思います。

川上:やっぱり教養を持っている人の層が向こうは厚いし、日本はあまりにも薄いですよね。

竹内:それは凄く感じます。リーダーというのは、「次、どうなるか」という時に、動く人ではないですか。「みんなついてこい」といった時に、「この人についていって大丈夫なのかな」という人が多すぎる、と感じますね。

好きなことをたくさん、例えばN高等学校のようなところで勉強していると、結果的にそれが教養になると思う。若い頃は、見栄を張って「これはつまらない」と思いつつも教養とされる本を読んだりすることはあると思いますよ。でも、身につくのはそういうものじゃない。好きなものですよね。

川上:そうですね。リーダーシップはいらないので、教養をつけてほしいですね。教養から得た結論で引っ張っていくのが、正しいリーダーシップであると思います。

竹内:小学校をつくったら、次は中学校をつくりたいと思っているんです。中学を卒業したら、このN高等学校に行く、というのもいいですよね。

僕は自分が学生の時に授業が苦痛で仕方がなかったんですよ。そこに座っていなければいけない、というその状況がイヤで。

川上:そうですよね。座ることと勉強は、本当は紐づいていない。この高校が世の中に認められるためにはどうすればいいかを考えると、おそらく皆さんが見るのは、雑誌に載っている東大合格者数ランキングではないかと思うのです。なので、東大志望者向けのプログラムを用意します。

それから、「就職できた」ということが分かりやすい方がいいな、と思っています。高校1年生でみっちりとプログラミングの授業をするコースをつくっているのですが、1年生の冬にはIT企業でインターンとして働かせてもらって、2年生の4月からは正社員で採用してもらう。そんなことも考えています。

竹内:は、早いですね。

川上:ある程度名の通ったIT企業や、うちとかでそれをやろう、という話をしていて。IT企業は給料が良いじゃないですか。日本社会ではこういうやり方が分かりやすいんだろうな、と思っているんです。

小学校は、ぜひぜひつくってくださいよ。5歳から入れるんですか?

竹内:はい、うちは年長からプリスクールで受け入れようと思っています。

川上:ぜひ、頑張ってください。いま娘が1歳なので、分校も3年以内に、ぜひ。


竹内 薫
たけうち・かおる◎8歳から10歳までを米国で過ごす。東京大学教養学部教養学科卒業後、同大の理学部物理学科に進む。卒業後はカナダのマギル大学大学院で理学博士号を取得。物理、数学、脳、宇宙など幅広いジャンルで執筆、講演を行う。近著に『素数はなぜ人を惹きつけるのか』(朝日新聞出版刊)など。

川上量生
かわかみ・のぶお◎カドカワ代表取締役社長。京都大学工学部卒業。1997年にドワンゴを設立。携帯ゲームや着メロなどのサービスを次々にヒットさせ、2006年には「ニコニコ動画」をスタートさせる。11年にはドワンゴの会長のままスタジオジブリに入社し、話題を集める。15年6月より現職。

フォーブス ジャパン編集部 = 構成 松井康一郎 = 写真

この記事は 「Forbes JAPAN No.21 2016年4月号(2016/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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