胸騒ぎのアイデアを生む「プロセスの模様替え」

イラストレーション=尾黒ケンジ


こうしたケースは、何もIT企業に限ったことでもない。大人気のグラノーラ専門店「GANORI」。オーナーの草なぎ洋平氏のブログに、閉店した代々木上原の第一号店誕生のプロセスが綴られている。タイトルは、「はじめに物件があった」。

物件の雰囲気に一目惚れして、まずとにかく契約して借りてしまった。そのあとで、この場所で何ができるのか、を考えて生まれたのがグラノーラ屋さんだったという。事業化において、物件探しは本来ずっと後回しなはず。けれど、場所から生まれたニューフードのトレンドが、僕ら日本人の毎朝を新しくしてくれることもある。

僕たちは無意識に、学習や事業開発のプロセスを、「課題発見」→「調査」→「発想・企画」→「ディスカッション」→「絞り込み」→「調整」→「発表・リリース」という不可逆な流れと捉えがちだ。けれど、そのプロセスを少し入れ替えるだけで、新しい結果が生まれることもあるということ。

そもそも、若い起業家たちの強い味方である「Kickstarter」に代表されるクラウドファンディングという手法も、「まず資金ありき」のルールから「まず欲しいものと欲しい人ありき」に変えることで商品やサービスの生む新しい仕組み。それに、企業の「採用と育成」だってプロセスによって随分違う。

終身雇用の日本企業は、40年近くも一緒に働く仲間を、働く前に面接だけで決めてきた。ロシア人の同僚は「昔の貴族の王子様が、一枚の写真の中でしか見たことのない遠くの国のお姫様と結婚するのに似てますね」と、日本の制度を今も不思議に思っている。欧米企業はもちろん、ほとんどインターン。良し悪しは別として、作られる人材と成果ははっきり変わってくるだろう。

加えて、順番を変えることに加えて、プロセスの中には、隠れて見えなくなっているものも、実はたくさんある。遠慮を美徳とする日本人。「あえて否定」したり、積上げてきた議論を「ひっくり返す」ことをスルーしていないだろうか。また、多数決をしてみたものの、みんな内心で決定に不安を感じていた、という経験、誰にだってあるはず。根拠を探す前に、直感に頼った意見を出し合うような、「胸騒ぎを起こす」プロセスが本当はかなり重要。GANORIのようにまず場所に一目惚れというケースだってあるのだから。

自らの日常の作業フローをカードにして、シャッフルし、引いた順に仕事を進めてみる。部屋の家具のレイアウトをいじるだけで、生活に変化を作るみたいに、学習や研究のプロセスを「模様替え」するのはどうだろう。制約が生みだす、意外な発想がきっと手に入るはずだ。

森口哲平◎2002年電通入社。戦略、制作、新規事業部門を渡り歩く。経営層のプレゼンサポートを行う「Team CUE」をサービス化。2年前より、企業のR&D・事業部門とともにサービスデザインを推進するチーム、XDSを立ち上げる。

森口哲平=文 尾黒ケンジ=イラストレーション

この記事は 「Forbes JAPAN No.21 2016年4月号(2016/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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