モバイル決済サービスの雄「ストライプ」 若きコリソン兄弟の苦闘

ジョン・コリソン Stripe共同創業者 (photographs by Jamel Toppin)


“ベストなこと”への労は惜しまず

設立当初はプログラムの作成から顧客サービスの対処、営業など全ての業務をパトリックとジョンが対応していたが、すぐに組織全体の舵取りに専念すべきだと気づいた。

最初に採用する10人の社員にストライプの成長が左右されるからこそ、この採用には10カ月かけて悩んで考えた。はじめての採用に、通常はありえない10%もの自社株を用意し、1週間以上ともに仕事をして候補者たちの能力を確かめてから正式な採用を決めた。選び抜かれた最終候補者たちは全員が起業した経験をもつ人ばかりだった。

今ではストライプも専門職別の縦割り企業になっているが、熟慮を重ねる採用方法は変わらない。ユニークなのは、どの面接者にも候補者を拒否する権利が与えられている点。一方でベストだと思った候補者への労は惜しまない。グーグルでいくつもの上級職を歴任したベテランで、当時グーグルの自動運転車事業のCOOだったクレア・ヒューズ・ジョンソンを口説くのには50時間以上を費やしたという。

このように会社づくりに力を入れた結果は、成果となって確実に返ってきた。毎年企業規模が倍増を続ける中でも、ストライプではサービスの大きな欠陥や人為的ミスは起こっていない。急成長するストライプだからではなく、コリソン兄弟と一緒なら働きたいと門戸をたたく人も多い。2年前は数人しかいなかった営業部隊を20人にまで増やした。アドイェンなどに対抗するため海外の銀行や政府、顧客に対応するチームも5人から70人に増員している。

コリソン兄弟がこの発展を続ける世界で中心的な存在になりたければ、ストライプを数あるスタートアップのひとつから、グローバルコマースで主役になれる企業にまで押し上げなければならない。そのために、「Relay」のような新しい取引を可能にする商品の開発は不可欠だ。

現在、ストライプにIPO(新規株式公開)の話はない。「今、シリコンバレーで起こっている問題は、自社の成功を過大に評価することです」とパトリックは語る。コリソン兄弟は自分たちに待ち受ける困難をよく理解している。だからこそ、ストライプは期待されている。たとえ世の中が変わり、今と全く違うビジネス環境となっても、コリソン兄弟はその時代・環境に適したサービスをつくり出すに違いない。なぜなら、彼らが謙遜と思慮深さを併せ持ちながら、世界を変える挑戦を続ける、これからのリーダーの姿だといえるからだ。

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パトリック・コリソンは今、世界最先端のフィンテック企業を率いる起業家として大きな注目を浴びている。

ミゲル・ヘルフト = 文 ジャメル・トッピン = 写真 徳田令子 = 翻訳 山下祐司 = 構成

この記事は 「Forbes JAPAN No.21 2016年4月号(2016/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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