サンフランシスコのAirware社はドローン用OSを開発するスタートアップだ。同社は、需要の拡大が見込まれる商用ドローン市場でのシェア拡大を目指しており、3月31日にネクスト・ワールド・キャピタル(Next World Capital)主導のラウンドで3,000万ドル(約32億円)を調達した。
このラウンドには、既存株主のクライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズ(Kleiner Perkins Caufield & Byers)やアンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)の他に、シスコシステムズの会長で前CEOのジョン・チェンバースらの投資家も参加した。チェンバースはAirwareの社外取締役に就任する予定だ。
Airwareの設立は2011年。これまでに7,000万ドルを調達し、ドローンスタートアップの中では最も多くの資金を調達した企業の一つとなった。CEOのジョナサン・ダウニーは今回のラウンドでの企業価値を公表していないが、調査会社 VC Expertsによるとその額は1億9,000万ドル以上(約206億円)だという。
農業や建設分野でドローン利用が拡大
ドローン業界に対する注目は、中国のSZ DJIテクノロジーやカリフォルニア州バークレーに本拠を置く3D Roboticsなど、コンシューマドローンのメーカーに集まりがちだが、Airwareはこれまで一貫してエンタープライズ向けアプリケーションの開発に専念してきた。同社が開発した「航空情報プラットフォーム」(Aerial Information Platform)はドローンのハードウェアとソフトウェアを提供するソリューションで、農作物の点検や建設現場の調査など様々な商用目的にドローンをカスタマイズすることができる。
「我々は4、5年をかけて商用ドローン向けのテクノロジーを開発してきた。一部のドローン企業は、コンシューマ向け市場をテクノロジー開発の足掛かりとして捉えているが、私はそうしたアプローチには懐疑的だ」とダウニーは話す。
ダウニーのコメントは、最近の3D Roboticsのリストラを踏まえたものだ。同社はコンシューマ向けのフラッグシップモデル「Solo」の販売不振により、一時は300名以上いた社員の半分以上を解雇した。3D Roboticsのクリス・アンダーソンCEOは、エンタープライズアプリケーションの開発に再注力する方針を表明している。
Airware自身も過去に事業モデルを転換している。かつては商用ドローンのメーカーを相手にオートパイロットシステムを提供してきたが、現在ではエンドユーザーである企業に直接働きかけ、彼らのニーズに合致したドローンの開発を行っている。
顧客リストには大手保険企業の名前も
ダウニーによると、Airwareの顧客にはゼネラル・エレクトリックやステートファーム保険などが含まれるという。ゼネラル・エレクトリックは傘下のVCを通じてAirwareに出資している。FAAは、今後商用ドローンの導入が進む分野の中で、保険業は工業検査、航空写真、農業に次いで4番目に大きい市場だとしている。
「保険会社がドローン技術の導入に非常に積極的であることに最初は驚かされた」とダウニーは話し、保険業界への参入は競争が激しいと指摘する。多くの保険会社がドローンの禁止措置の例外適用を受けており、Airwareはそのうちの一社であるステートファーム保険と既に提携している。両社は、ドローンを使った屋根周りの点検業務をアメリカ南部で実施する予定だ。
新たにAirwareの社外取締役に就任したチェンバースは、1995年から2015年7月までシスコシステムズのCEOを務め、今後は豊富なコネクションを活かしてAirwareに新規顧客を紹介することが期待される。元々はマーク・アンドリーセンが若いダウニーのメンターとしてチェンバースを紹介し、これまでも顧客候補をAirwareに紹介してきた。チェンバースがシスコ以外の企業の取締役会に名を連ねるのは、2006年にウォルマートの社外取締役を退任して以来だという。
「Airwareに興味を持ち始めてから真っ先に知り合いのCIOたちに連絡をして、このビジネスが将来どれだけ重要になるか意見を聞いてみた」とチェンバースは話す。彼は自らヘリコプターの操縦をするが、ドローンを飛ばし始めたのは最近ダウニーに勧められてからだ。Airwareへの出資額は、これまで個人としてスタートアップに投資した金額で最も大きいという。チェンバースは、有能な人材の雇用や顧客との関係構築、営業チームの強化などでダウニーを支援していくとしている。
ダウニーによると、今回調達した3,000万ドルの多くは、カスタマーサポートや営業支援の強化に充当する予定だという。また、Airwareはネクスト・ワールド・キャピタルの支援を受けてヨーロッパ市場への進出も検討している。FAAは商用ドローンの規定を今年後半にも発表する予定だ。今後市場が一気に拡大することが予想される中、「我々は好位置につけている」とダウニーはAirwareの事業拡大に自信をのぞかせる。