フォードは4月5日、16億ドル(約1,730億円)を投じて、メキシコに新工場を建設する計画を発表した。意外な発表だったわけではない。昨年7月にミシガン州の工場での小型車生産を打ち切ると発表した同社が、メキシコに新たな、より低コストの工場建設を計画するのは必然的な流れだった。
工場の建設に伴い、現地では2,800人の新規雇用が創出される計画だ。貿易協定がアメリカから雇用を奪うと主張しているドナルド・トランプが、この計画に噛みつくのは確実だろう。トランプは何か月も前から、メキシコへの投資についてフォードを批判してきた。昨年10月には勘違いから、自分の執拗な批判を受けてフォードが翻意し、メキシコから雇用を取り戻すことにしたとも主張していた。
メキシコはフォードにとって、米国、中国とドイツに次ぐ世界4位の規模の生産拠点だが、メキシコに大規模な投資を行っている自動車メーカーは、同社だけではない。メキシコは急速に、北米の自動車生産の中心地となりつつあるのだ。魅力的な貿易協定と、十分な訓練を積んだ低コストの労働者が揃っているため、アメリカと南米だけでなく、欧州やアジアへの自動車輸出を行う上でも理想的な場所となっている。
それでも、メキシコ進出には異論も多い。UAW(米自動車労働組合)のデニス・ウィリアムズ委員長は、フォードの発表にすぐに反応し、「フォードがメキシコに投資を行うという今回の発表は、きわめて残念だ。米国の労働者が手にできるはずであり、そして手にするべきだった雇用が、メキシコに流れることを意味する」と語った。
「これはNAFTA(北米自由貿易協定)の問題点やTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が米国民にとって最悪なものとなる理由を示す新たな例となる。米企業は、低賃金の国で生産を行った製品を逆輸入するという形を取り続けている。この破綻したシステムには、修正が必要だ」
批判が噴出する可能性を認識していたに違いないフォードは、プレス発表資料のタイトルからは「メキシコ」という言葉を外し「小型車の収益性を高めるため新工場に投資へ」とした。また同社は、91年前からメキシコに進出している(つまり低コストの労働力に飛びついたわけではない)こと、メキシコの郊外に200校近い学校を建設してきたことを強調。サンルイス・ポトシ州に建設する新工場は「フォードの競争力をさらに高めるものになる」とした。
さらにフォード側は、グローバルな体質を改めて強調。過去5年間で米国には102億ドル(約1兆800万円)以上、スペインには27億ドル(約2,900億円)、ドイツには24億ドル(約2,600億円)、中国(のパートナー)には48億ドル(約5,200億円)を投資してきたとアピール。
また同社の広報担当者は、今回の発表を決断した経緯を明かすとともに、フォードは過去5年間に米国で25,000人の労働者を雇っており、米国内でほかのどの自動車メーカーよりも多くの自動車を生産し、多くの時間給労働者を雇っていると述べた。