周りを不幸にしない廃業という事業承継のかたち
上場しているファミリー企業にとっても、ガバナンス改革は必須である。機関投資家へのスチュワードシップ・コードの導入と、企業側へのコーポレートガバナンス・コードの適用は、ファミリービジネスの在り方を大きく変えるかもしれない。
「機関投資家には、投資先の企業との対話を通して持続的企業価値の向上に努めることが義務付けられました。企業側には四半期ごとの開示では長期投資が行いにくい経営環境を改善することが求められています。さらなる透明性と合理性をもったガバナンスの構築が必要となったのです」
いま、グローバル企業は厳しい競争に晒され、ローカル企業は生産性の格差で二極化している。需要が減少し、後継者も育たないファミリービジネスは市場から撤退するしか策はないのだろうか。
「事業承継のひとつのかたちとして、廃業という選択視を無視することはできません。まだ会社が健全な状態のうちに廃業を主体的に考えるのは、賢い選択だと私は思っているんです。早期に撤退すれば、法人の資産放棄で終わります。一方、会社を存続させるために個人資産が底を突き、一族を連帯保証人にした結果、倒産となれば、極めて深刻な事態に追い込まれます。いま行っている事業に将来性がないと判断し、早期に手を打つのは、恥ずべきことではありません。個人資産が残れば、新たな事業を興すことも可能です。何より自身、家族が重荷から解放されれば、その後の人生を有意義に過ごすことも可能になるのではないでしょうか」
会社の未来を決める事業承継は、ある日突然、選択を迫られるものであってはならない。ビジネスを見直す好機とするために、経営者の周到な準備は不可欠なのだ。
米田 隆(よねだ・たかし)◎早稲田大学ビジネススクール客員教授。株式会社グローバル・リンク・アソシエイツ代表取締役。日本興業銀行本店勤務、日本法人エル・ピー・エル日本証券(現PWM日本証券)代表取締役などを経て現職。専門は金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略など。