少数株主を大切にする新たなガバナンスの構築
「大企業であれ、中小企業であれ、現在の会社のもつ能力を超えた挑戦を行うべき局面に来ています。これまで日本の事業承継は、一族による株式の集中が最大の特徴だったと言っていいでしょう。強大な支配権を軸に成長してきました。ところがこれからの社会では、その株式の集中が仇となり、経営の暴走も起こりうるのです。今後日本の人口が減少し、地価が下がることを想定すると、業種によっては新たなガバナンスの構築が急務になります。欧米では、一族が大株主としての影響力を残しながらも、優れた実績をもつ者に経営を任せるという方法で成功している企業が多数存在します。ドイツのヘンケル社や、日本でもおなじみのジョンソン・エンド・ジョンソンなどは株式の所有と経営を切り離したことで成長を遂げました」
事業を承継する意志と能力があるのであれば、会社への影響力を残しながらも、一族の存在が会社の成長の妨げにならない、ファミリービジネス・ガバナンスの構築も選択肢に入れるべきだという。
「株式を所有していると、どうしても経営に口を出したくなります。しかし、このスキームで企業価値を高めるには、直接業務を執行しないというルールは守らなければなりません。会社の伝統を守ることと、イノベーションを起こすことを両立させるのは確かに難しい。成功例の多い欧米企業に学ぶのがいいでしょう」
新たなガバナンスを取り入れるためには、前提条件もある。
「中小企業の場合、運転資金や設備投資は金融機関からの借り入れが中心になります。あくまでも一族経営を目指し、売上至上主義に陥ると、相続税対策で、前述したような暴走が起こりかねません。返済能力を超えた借り入れによる償却費率の高い不動産投資などをして節税に奔走した結果、会社の価値が破壊されるケースもあるのです。欧米の企業には一族で財産を独占するのではなく、少数株主を大切にする慣習があります。非公開企業でも少数株主が200人を超えるという例はたくさんあります。こうした土壌があるので、株式の所有と経営の分離という選択が可能なのです。日本の非公開企業も、周辺株主に対し財務諸表を開示し事業戦略を共有して、企業価値を高めるガバナンスの在り方を模索するのは、とても有益です」