この問題をめぐっては、2つの議論がある。1つは、賃金上昇分は最終的に価格転嫁され、消費者物価の上昇を招くという指摘。小規模小売店はその打撃をまともに受けることになるし、業界全体で雇用が削減されることにもなる。
一方で、これまでの最低賃金は「生活できる賃金」ではないという指摘もある。労働者たちはぎりぎりの生活を強いられ、社会福祉に依存するため、それが増税を招くことになる。
どちらの言い分にも一理ある。そしていずれの見解にも共通するのは、結局は消費者がなんらかの形で負担をすることになるという点だ。
では、小売店とその従業員への影響はどうなのだろうか。私の見解はこうだ。
いずれにせよ変革は必要だ
小売業は退屈な仕事だらけだ。私は大手小売りチェーンのKマートで働いたことがあるが、初日の仕事は接客ではなく売り場の掃除だった。小売業界にはこうした仕事がたくさんあるが、その多くはそれが「顧客の体験に付加価値をもたらすから」ではなく「ずっとそうしてきたから」存在しているように感じる。
消費者が携帯電話から買い物をすることができる今、業界は既に変革を迫られている。実際の店舗をオンライン店舗と差別化する要素は2つだけ。1つは顧客が実際に商品を見たり触ったりできること。もう1つは、商品に詳しいエキスパートに買い物を手助けして貰えることだ。
時給7.50ドル(約821円)で有能なエキスパートを見つけることが可能だろうか。優秀な人は大勢いるが、正直言って、どんなに優れた人でも時間とともにすり減っていく。時給7.50ドルしか貰っていなければ、時給7.50ドル分の仕事しかしなくなるまでにさほど時間はかからない。
それが、いま多くの小売店が陥っている悪循環を招くのだ。雇用主が7.50ドルを払って得られるものは、7.50ドル分の仕事でしかない。消費者がオンラインで買い物をするようになるのは、その方がいい顧客体験ができるからだ。