ビジネス

2016.04.08

米国の最低賃金引き上げは小売業を変えるか?

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この一年、最低賃金の時給15ドル(約1660円)への引き上げをめぐる議論や圧力が高まっていたが、推進派の努力の一部がようやく現実となった。そこで浮上するのが、これが最低賃金の労働者への依存度が高い小売業界にどのような疑問を及ぼすのかという疑問だ。

この問題をめぐっては、2つの議論がある。1つは、賃金上昇分は最終的に価格転嫁され、消費者物価の上昇を招くという指摘。小規模小売店はその打撃をまともに受けることになるし、業界全体で雇用が削減されることにもなる。

一方で、これまでの最低賃金は「生活できる賃金」ではないという指摘もある。労働者たちはぎりぎりの生活を強いられ、社会福祉に依存するため、それが増税を招くことになる。

どちらの言い分にも一理ある。そしていずれの見解にも共通するのは、結局は消費者がなんらかの形で負担をすることになるという点だ。

では、小売店とその従業員への影響はどうなのだろうか。私の見解はこうだ。

いずれにせよ変革は必要だ

小売業は退屈な仕事だらけだ。私は大手小売りチェーンのKマートで働いたことがあるが、初日の仕事は接客ではなく売り場の掃除だった。小売業界にはこうした仕事がたくさんあるが、その多くはそれが「顧客の体験に付加価値をもたらすから」ではなく「ずっとそうしてきたから」存在しているように感じる。

消費者が携帯電話から買い物をすることができる今、業界は既に変革を迫られている。実際の店舗をオンライン店舗と差別化する要素は2つだけ。1つは顧客が実際に商品を見たり触ったりできること。もう1つは、商品に詳しいエキスパートに買い物を手助けして貰えることだ。

時給7.50ドル(約821円)で有能なエキスパートを見つけることが可能だろうか。優秀な人は大勢いるが、正直言って、どんなに優れた人でも時間とともにすり減っていく。時給7.50ドルしか貰っていなければ、時給7.50ドル分の仕事しかしなくなるまでにさほど時間はかからない。

それが、いま多くの小売店が陥っている悪循環を招くのだ。雇用主が7.50ドルを払って得られるものは、7.50ドル分の仕事でしかない。消費者がオンラインで買い物をするようになるのは、その方がいい顧客体験ができるからだ。
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編集 = 木内涼子

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