「慈善活動のカリスマ」ビル・ゲイツに学ぶ究極のリーダー像

ぜいたくに見向きもせず、資産を慈善事業につぎ込むビル・ゲイツ。夫人とともに貧困地域に足を運び、一人でも多くの人の生活の質を高める活動を行っている。まさに見せ掛けの慈善ではない 本物の慈善家だ。 (Photo by Ida Mae Astute/ABC via Getty Images)


富裕層を巻き込みムーブメントに

「フィランソロピーをしなければ、有能なリーダーになれないわけではないが、リーダーとして成功するには、目的や信念、何のためにビジネスをするのかという理由づけが必要だ」と話すのは、ニューヨークの起業家、ラッセル・サーダーだ。IT・ビジネススキルの研修・認定ベンチャー、ネットコム・ラーニングのCEOである同氏は、過去16〜17年間で1,600冊以上のビジネス書を読破したが、特に関心を持っているのがリーダーシップ論だ。

サーダーによると、フィランソロピーとは無縁でも偉大だと言われるリーダーは多い。とはいえ、リーダーシップの定義を突き詰めると、「人々が善行を行うよう、どれだけ世の中に大きな影響を与えられるかだ」と、同氏は言う。「ゲイツは自分だけでなく、他の富裕層をフィランソロピーに巻き込むという『ムーブメント』を巻き起こしている」。

ゲイツがどのようにIT帝国を築いたかを描いた『Gates』(1993年)の共著者で、シアトル在住ジャーナリストのスティーブン・マーネスは当時、ゲイツから許可をもらい、1年がかりで、延べ24時間にわたる取材を行った。マーネスによると、ゲイツは社内の誰よりもよく働き、柔軟性に富み、データ第一の緻密なアジェンダを求めた。「フィランソロピーにおいても、データに基づく方法で、自分の資産を使って(世界に)最大の影響力を及ぼすにはどうすればいいかを考えているのではないか」。

マーネスいわく、リーダーシップは属人的だ。ゲイツがスティーブ・ジョブズになれなかったように、誰もゲイツにはなれない。「リーダーシップを人から学ぶのは難しい。だからこそ(ゲイツの)レガシーが重要なのだ」。

前出のシンギュラリティ大学名誉フェローのワドワーがウォール街でIT専門家として働いていた1986年のことだ。ウィンドウズの売り込みにシアトルからやって来たゲイツは、ビジョンをとうとうと語り、ワドワーが働いていた銀行にどれだけ恩恵をもたらすか、熱弁をふるったという。「カリスマ性と説得力にあふれていた」とワドワーは振り返る。

その銀行はリスクを取ってゲイツに賭ける道を選び、巨費を投じてプロジェクトを進めたという。「起業家が成功するには、自分を信じ、周りを説得できなければならない」と語るワドワーは、プロジェクトが成功したおかげで、若くしてバイスプレジデントに昇進した。「ゲイツ氏は人々をインスパイアし、心を動かすことができる。フィランソロピーでも、世界中の人々に影響を与えている」(ワドワー)

前出のサーダーも「ゲイツは強いリーダーになるための“VISTA”なるフレームワークをすべて兼ね備えている」と分析する。VISTAとはつまり、Visionary(先見性)、Inspiring(人の心を動かせること)、Smart(聡明さ)、Trustworthy(信頼に値すること)、Able(物事を遂行する能力・有能さ)である。

テクノロジー業界のカリスマからフィランソロピーのリーダーへと変貌を遂げたゲイツー。その道筋を、社会的起業家精神にあふれた世界中の次世代リーダーたちが見守っている。

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マラリア撲滅に5,000億円を拠出すると発表したゲイツはイギリスのオズボーン筆頭国務大臣とともにリバプールの熱帯医学学校を訪問した。(Photo by Dave Thompson - WPA Pool /Getty Images)

肥田美佐子 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.21 2016年4月号(2016/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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