「慈善活動のカリスマ」ビル・ゲイツに学ぶ究極のリーダー像

ぜいたくに見向きもせず、資産を慈善事業につぎ込むビル・ゲイツ。夫人とともに貧困地域に足を運び、一人でも多くの人の生活の質を高める活動を行っている。まさに見せ掛けの慈善ではない 本物の慈善家だ。 (Photo by Ida Mae Astute/ABC via Getty Images)


荒廃した高校にも自ら足を運ぶ

ゲイツの言葉を借りれば、フィランソロピーは、「政府機能に対するベンチャーキャピタル」だ。民間企業は利益モデルが存在しないマラリア撲滅などに投資せず、政府も効果的な対策を打ち出せない。そこで、リスクを恐れず研究開発を行い、実験的プログラムに投資できるのがフィランソロピーというわけだ。

実際、ゲイツは他社と提携し、暑いアフリカの地でも氷のみでワクチンを長期保存できる「スーパー魔法瓶」なる受動ワクチン・ストレージデバイス(記憶装置)の開発にかかわっている。「ゲイツは、後半生のキャリアをフルタイムでフィランソロピーに費やしている。他のビリオネアを牽引し、先頭に立って社会貢献への賛同を呼びかけている」と、ハーバード大学ビジネススクール教授のウィリアム・カーは評価する。

元シリコンバレーのIT起業家で、シンギュラリティ大学の名誉フェローでもあるビベック・ワドワーいわく、慈善事業家を自称する大半の富裕層は「本物」ではない。世界のことを気にかけているフリをし、それを世間に誇示したいだけだという。「だが、ゲイツは本物だ」とワドワーは言う。その理由は、ゲイツがリーダーとして自ら動き、世界をより良くするために「行動」しているからだ。

米国では、出身大学に多額の寄付を行い、校舎の壁に刻まれた自分の名前を見て悦に入る富裕層も多い。一方、ゲイツは、一人でも多くの人の生活の質を高めるため、メリンダとともに世界中の貧困地域の診療所に足を運び、子供たちにポリオワクチンを飲ませたり、米国の貧困地区の学校を回って教育環境向上の支援を行ったりしている。

世界の富豪とフィランソロピーを専門とし、数々の大富豪を取材してきた「フォーブス」のベテラン編集者、ケリー・ドーランによると、ゲイツはワシントン州シアトル近郊に大邸宅を所有しているものの、ヨットや豪華な飛行機などには目もくれず、30億ドル近い資産を自らの財団につぎ込んでいる。

マイクロソフト創業から、今年の4月で41年。「『すべての米国人のデスクにコンピュータを』というゲイツの夢はかなったも同然」(ドーラン)だが、ゲイツは今、新たな目標に挑んでいる。

最近、メリンダがツイッター上にアップしたビデオには、夫妻でケンタッキー東部の炭鉱地帯にある高校を訪れ、学生たちと交流する様子が映っている。採炭産業の斜陽で貧困化が進み、米政府からも置き去りにされたかのような荒廃した高校にも自ら足を運ぶゲイツ。「世界が抱える問題が何かを現場で感じ取るためだ」(ドーラン)。

ゲイツ財団は昨年、すべての高校生が質の高い教育を受けられるように、教師の研修などに3億3,500万ドルを投ずると発表した。

米国では、ITブームで若き大富豪が次々と誕生し、「持たざる者」との格差拡大が進むなか、財産や地位のある者には社会的義務が生じるという「ノブレス・オブリージュ」の考え方が浸透し、フィランソロピーが注目されるようになった。ドーランによれば、富裕層がさらにお金持ちになるにつれ、資産の一部を寄付することが当然のごとく期待されている。

禁酒の誓いを意味する「テイク・ザ・プレッジ」運動も、そのひとつだ。10年にバフェットの音頭で始まったこの誓約は、世界の富豪に、死後または生前、資産の大半を寄付するよう呼びかけるもの。現在、142人が「寄付の誓い」をしており、テスラモーターズの最高経営責任者(CEO)イーロン・マスクやフェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ、「シェール革命の父」として知られる石油王ハロルド・ハム、マイクロソフト共同創業者で現在は起業家・慈善事業家のポール・アレンなども名を連ねている。

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肥田美佐子 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.21 2016年4月号(2016/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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