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2016.04.06

マイナス金利の影響ー伊藤隆敏の「数字で読み解く日本経済」

VERSUSstudio / shutterstock


注目は住宅ローン金利の下落

このようなマイナス金利の功罪の予想が交錯するなかで、「マイナス金利」発表に株式市場と為替市場は大きく反応した。発表直後は株価急騰、円安に“ジャンプ”した。1月29日の終値では、日経平均は2.8%上昇。一方、銀行株は銀行業績にはマイナスであるとして、多くの銀行株は3%近く下落。ドル円も3円ほど円安になった。その後は株安、円高に転じる。その流れが一巡すると、ふたたび、じりじりと株価上昇、円安が続き、翌週には、原油安、アメリカの株安が引き金となって、株高・円安効果も、剥げ落ちてしまった。

銀行は、企業や家計の顧客からの預金にマイナス金利をつけることはできるだろうか。預金金利がマイナスになると預金を現金で引き出して、自宅金庫に保管する人が現れるかもしれない。それも盗難リスクをともなうし、手間も面倒くさいだろう。大企業の場合には、マイナスの預金金利でもあきらめて預け続けるところが多いだろう。このあたりは、スイスやスウェーデンの経験から推測が可能だ。

ひとつだけ、スイスの経験と日本の(これからの)経験が異なる点がある。それは、スイスではマイナス金利の導入後、住宅ローン金利は上昇したというのだ。一方、日本では、マイナス金利導入後、長期金利の下落とともに、住宅ローン金利が下落している。日本のほうが景気押し上げ効果を持ちそうだ。

ちなみに、古来、金貸しによる「利子」徴収を適切ではないとする宗教上の教義、あるいは教本の解釈は多数ある。旧約聖書では、利子のついた金貸しを禁止していたという。その結果、古代カソリック教会でも利つきの金貸しを禁止していたという。あるいは、ユダヤ教では同胞には金利をつけないが、外国人(異教徒)には利子をつけて貸してもいい、という解釈もあったようだ。イスラム教では、今日にいたるまで「金利」は禁止されている。イスラム金融では、預金の代わりに出資、利子の代わりに配当、という概念を使っている。これらの教義ではマイナス金利はどう扱われるのだろうか。やはり禁止なのか、興味があるところだ。

伊藤隆敏 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.21 2016年4月号(2016/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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