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2016.04.06

マイナス金利の影響ー伊藤隆敏の「数字で読み解く日本経済」

VERSUSstudio / shutterstock


「功罪の予想」が交錯

インフレ率2%を達成するためには、インフレ期待を高め、賃金交渉のなかで賃金上昇を誘導し、それが製品価格上昇という形で、インフレ率押し上げにつながることが必要だ。そのため、これから春闘が始まるというときに、世界の金融市場の混乱が、株安、円高を引き起こして、国内のインフレ期待が下がり始めるということを懸念したのだろう。たしかに、日銀が独自に集計している家計の予想物価上昇率(図1)は、2013年4月のQQE(量的・質的緩和)導入で一気に高まったものの、その後、じりじりと下げ続けている。14年10月のQQE2で少し上がったが、その後また下がっている。いっぽう、生鮮食品とエネルギー製品を除いた「基調的な」物価動向は、プラス1%を超えているなど、これからも景気の回復が続いて、賃上げ、インフレのサイクルがうまく働けば、17年度前半にも2%のインフレ目標は達成可能、としている。

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マイナス金利が適用されるのは、民間銀行が新規に日銀の口座(当座預金)に超過準備として預金される部分であり、すでに超過準備として日銀に預金している部分は、これまでどおりプラス0.1%が適用される。必要準備には0%が適用される。さらに、量的緩和により毎年80兆円近くが超過準備として積み増されることから、それについてのマイナス金利が負担にならないように、0%金利を適用する部分を段階的に増やしていくとして「マクロ加算残高」とよんでいる(図2参照)。この部分は、金融機関がマイナス金利から被る損失を見ながら、匙加減を調節することになりそうだ。

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新規預金については、民間銀行は日銀に預けているだけで、損失を被る。むしろ現金を自行の金庫に入れておいたほうがいいが、これは物理的にも限界はあるし、作業負担、リスクも大きい。日銀に預けても、単に現金を寝かせておいても利益は出ない。利益を出すためには、(1)金利を下げて貸し出しを増やす、(2)外国債券や株式を購入する、(3)不動産ファンドなどに出資する、などの創意工夫が必要になる。もちろんマイナス金利政策の狙いは、そのような“お金の流れの変化”にある。住宅ローン金利や企業への銀行ローン金利が低下することは、消費者や企業に歓迎され、消費や投資を押し上げる効果を持っている。

金融機関は、市場を通じて国債を日銀に売却するには、売却で得た現金を高い利回りで貸し出し、資産運用できなければ、そもそも売却しない。そのため日銀の国債買い入れ価格は上昇(利回りは低下)する。このプロセスは、イールドカーブ全体を押し下げる。

また、外債の購入者が増えれば円安になり、結果的には日本の輸出産業の業績を後押しすることになる。世界経済混乱のなかで、安全通貨の円は増価しやすいので、この効果は望ましいだろう。

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伊藤隆敏 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.21 2016年4月号(2016/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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