「米国版サムスン」に成り下がったアップルの悲しさ

アップルのティム・クックCEO (Photo by Justin Sullivan/Getty Images)

アップルが3月21日に発表した3つの主力製品はお世辞にも“新しい”とは言い難い。iPhone SEは 5Sのチップを新しくしただけだ。9.7インチiPad Proは従来のモデルの機能を踏襲しただけだ。さらに、Apple Watchに至っては、機能は変わらず、スウォッチのようなファッション性を追求したのみとなっている。

ナイロンのストラップが発表されただけだというニュースを聞くと、担当者の感覚を疑わざるを得なくなる。アップルはもはや未来を提案するよりも、最小限の努力で最大限の利益を上げようとしているのではないか。

「未来をつくる使命」を忘れたアップル

今回の新製品発表会は、もはやアップルがマーケットのリーダーではないことが露呈させた。フラッグシップの大型スマホと同じ性能の小型モデルを発表するという手法は、すでにソニーとサムスンが行っている。同機能の小型モデルを発表することは選択肢を1つ増やすことになるが、フラッグシップモデルのユニークさを損なうという代償が付いてくる。

アップルがここまで成功できたのは、同社が次世代を担うと信じる全ての機能を1つのスマホで具現化していたからであり、その方針から離れることは問題だ。今のアップルは、ありとあらゆるタイプのデバイスを消費者が購入しやすい価格で用意して、できる限り多く売ることしか目指していない。

それはまさにサムスンが売上を伸ばしてきたやり方だ。

もちろんビジネスであるからには売上を上げなくてはならない。しかし、アップルは、製品を増やして売れるだけ売るという競争とは無縁だというイメージを築いてきたはずだ。アップルと言えば、世界を変えるようなハードウェアを提供する企業であり、これがあれば何でもできるというデバイスを開発する企業であり、他のメーカーとは一線を画す存在だったはずだ。

それが今となっては様々な価格帯で平均よりも若干優れた製品を作るだけの企業になってしまった。ティム・クックCEOはアップルを安全ながら面白みのない企業にしようとしている。今のアップルが考えているのは優れた製品を作ることではなく、毎年消費者に買い換えさせることだけだ。

株主は喜ぶかもしれないし、生産工場は忙しなく稼働し続けるだろう。アップルも成長し続けるに違いない。しかし、そこにアップル精神はあるのだろうか。

編集=上田裕資

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