3Kと呼ばれた現場を「最先端」に、難題に挑むコマツの挑戦

大橋徹二 コマツ代表取締役社長兼CEO(佐藤裕信 = 写真)

コマツにテレビや新聞の取材が相次いでいる。3Kと呼ばれる土木建設の現場。そこに、建設機械を供給するメーカーが脚光を浴びる理由は、日本が抱えた難題を「解決する切り札」と見られているからだ。

集中豪雨、人手不足、地方の衰退。こうした壮大なテーマに最初から立ち向かおうとしていたわけではない。大橋徹二は2013年に社長に就任する前、気になることがあったという。

「社長に就任する前から、情報化施工の建設機械として開発したICTブルドーザーを発表することが決まっていました。しかし、機械そのものを自動化したり、無人化するだけでいいのだろうか、いい機械をつくれば、お客様が喜ぶのかと疑問に思えてきたのです」

情報化施工は、いまで言うIoTに近い。情報通信技術で建設機械を自動制御し、作業を効率化するものだが、大橋が言う。

「土木の現場にはたくさんの人がかかわっています。設計、測量、施工、人や機械を手配する人、土をダンプで運んだり、地盤を転圧する人。さまざまなプロセスのなかで、お客様から見たら、機械が一台だけよくなってもあまり意味がないのです」

例えば、コマツの担当者が工事現場に行っても、「機械屋さんにはわからないから」と言われることがある。実は、この言葉をどう受け止めるかが、重要だ。「機械屋というのは屈辱的ですね」と問うと、大橋はこう答えた。「それは、お客様に踏み込めていないということ」

顧客との関係を深めていけば、「実は困っていることがあって、何とかならないかな」と言われる。それが視野を広げ、コマツが打ち出す「スマートコンストラクション」に発展したのだ。

「情報化施工はもともと施工効率向上のための自動化や無人化が目的でした。ところが、全国のお客様のところを回ってみると、悩みは安全と人手不足なんです。東日本大震災の復興以外にも、地球温暖化のせいなのか、集中豪雨や洪水が起きるし、老朽化施設の更新もある。山間部の小さな町に行くと、豪雨で土砂崩れが起きても、土木工事や家の補修を担える人がいなくなっています。作業をする方々がいても、高齢化していて担い手が少ない。また若い人も3Kのためか入ってこない。さらに、オリンピックが決まり、環状道路などができることになって、人がどんどん足りなくなっているのです」

解決策として、まず大橋は組織の体制を変えた。開発部門のトップをCTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)に任命し、「将来を見て、面白い技術とコマツの技術を融合させよう」と、オープン・イノベーション方式によるネタ探しをさせたのだ。シリコンバレーに飛んだCTOのスタッフが現地で得た提案が、「素早い測量なら空からでしょう」だった。

これがドローンによる三次元測量となる。さらに、クラウドですべての情報をICTでつなげた。三次元測量データと三次元化した最終設計図を照合することで、正確な土量を計算でき、ブルドーザーや油圧ショベルを何台使えばいいのかなど、施工計画を正確に策定することができる。

ICT油圧ショベルに装着したステレオカメラにより、ICT建機以外で掘った地形の現況データをリアルタイムでクラウドに送信。最終設計図に対して、進捗状況も3Dの図面でわかる。しかも、iPadなどあらゆるデバイスで、変わりゆく地形データが見えるのだ。

作業の効率化と高精度化によって工期を短縮できるうえ、少ないスタッフでの作業が可能になった。安全性向上に貢献するうえ、3Kと呼ばれた現場が「最先端」となり、若い人にとって魅力となる。施工そのものを「見える化」し、生産性を一気に高めたのだ。

「これまで全国1,000か所でスマートコンストラクションを導入していただき、『これはいい』と言っていただきました」と、大橋は言う。建設機械メーカーにとって、新興国の景気減退など取り巻く環境は厳しいが、彼はこう苦笑する。「私はいつも会社の中であまり業績のよくないところばかりやってきました。建設機械の需要も厳しい時期ですが、そういうのが自分に合っているのかな、と(笑)」

苦境でも状況判断をして、打つ手を探って、みんなで確認をして、最後まで実行すると、大橋は言う。「実行して諦めなければ、失敗はないし、新たな地平が開けます」

おおはし・てつじ◎1954年、東京都出身。東京大学工学部を卒業後、77年に入社。84年にスタンフォード大学院修士。89年に英国コマツに赴任。その後、真岡工場の黒字化やコマツアメリカの鉱山機械事業再建を果たし、2009年に取締役兼常務執行役員生産本部長に就任。13年より現職。

文=藤吉雅春

この記事は 「Forbes JAPAN No.21 2016年4月号(2016/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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